AIと雇用とエリート過剰生産、そして教育はどう変わるか

AIの性能が、この1年で大きく進歩してきました。それに伴って、教育や雇用のあり方について考えることが増えました。
特に考えているのは、AIによって雇用が再編されたときに、社会や大学にどのような変化がありそうなのか、です。
本稿で「変わる」と考えている領域は大きく3つあります。
- AIによって雇用や仕事自体が変わる
- キャリアアップの歩み方が変わる
- エリートがより過剰になる
これらを踏まえて、大学教育をどうするのか、をまだ雑ぱくとした段階ですが書いておきます。

「雇用が奪われる」わけではない、かもしれないが…
よくあるのがAI失業の話ですが、最近のAIと労働に関するレポートを見ていると、現時点では「AIによって大量失業が起きている」とは言いにくい、という報告が多いようです。
McKinsey Global Instituteの2026年の欧州レポートでは、欧州10カ国の現在の労働時間の58%は、既存技術で技術的には自動化可能だとされています。ただし、ここでは「58%の仕事がなくなる」という意味ではなく、技術的な自動化可能性だという点に注意が必要です。
Goldman Sachsも「移行期の失業率上昇は0.5ポイント程度」「現行ユースケース拡大で米国雇用の2.5%がリスク」「広範普及なら6〜7%が置換されうる」と述べていますが、「大規模な雇用削減には懐疑的」とまとめています。
Yale Budget LabやNew York Fedの分析を見ても、広範な労働市場の混乱や、AIによる明確な求人減少は、まだはっきりとは確認されていません。
むしろAndreessen Horowtiz などは、AIによる雇用の崩壊はファンタジーだと論じます。AIは一部のタスクや役割を圧縮するが、生産性向上によって新しい需要や新しい仕事も生む、という議論を行っています。
とはいえ実感として、AIによって仕事の一部が自動化されていると感じている人や、インターンを採用しなくなったりしている組織は多いのではないでしょうか。
その原因を探るためには、おそらく「仕事がなくなるかどうか」だけで見るのは不十分で、仕事をより細分化して、どこに影響があるのかを見ていく必要があるのだろうと思います。
たとえばタスク・採用・マクロな雇用数といったように、抽象度別に分けて考え、それぞれで現時点の影響や影響の伝播の時間軸が異なると整理するほうが良さそうです。
層 | 何が変わるか | 現在の影響度合い |
タスク | 要約、下書き、検索、分類、定型分析、一次応答がAI化する | 高い |
採用 | 若手・入口職・ジュニア職の募集や職務設計が変わる | 中程度。ただし重要 |
雇用数 | 既存人員の削減、職種消滅、失業率上昇 | 現時点では限定的 |
短期的には、AIによる大量失業が起こるというよりも、ホワイトカラーの仕事、とりわけ高曝露職におけるタスクが置き換わり、中長期的に採用要件の変化、雇用や賃金への影響、などが起こりうる、というふうに見ていくべきなのでしょう。
ただし、一部ではすでに雇用への影響が出てきているという論も出始めています。
Economistの 5/13 の記事では、「最も影響を受けやすい分野」においては、既に雇用数にも影響が出ているといった報告がされています。米国ではマクロ的に悪くなっている就職状況に加えて、短期的にもすでにAIの影響が出ているようで、感覚とも合致します。以下は引用です。
AIの影響を受けやすい分野の卒業生ほど、状況が著しく悪化していることが分かりました。2022年から2024年にかけて、AIの影響が最も少ない下位20%の分野(教育学、哲学、土木工学など)では、フルタイム雇用率の低下はわずか1.5ポイントにとどまりました。対照的に、最も影響を受けやすい上位20%の分野(計算機科学、コンピュータ工学、情報科学など)では、6.6ポイントもの下落を記録しました。(Is AI putting graduates out of work already? の一節の翻訳)
Andreessen Horowtiz の AIによる雇用の崩壊はファンタジーだと論じている記事にも一理ありますが、楽観的すぎるようにも見えていますし、問題は総雇用数ではなく、誰が仕事を失って、誰が得るのか、移行に何年かかるのか、そして、新たに生まれてくる仕事はどういった「質」のものか、です。
仕事の変化

今後中長期的に雇用や賃金への影響が起こるとしたら、どこに来るのかというと、中位職だというのがよく言われます。AIに関連してよく言われる「スマイルカーブ」のような現象です。
高度な知的作業、たとえば戦略、意思決定、責任、対人調整、創造性の高い仕事は残り、身体性が強く、現場性が高い仕事、たとえば介護、建設、整備、調理、接客の一部なども残るものの、その中間にある、定型的な知的労働や事務作業が圧迫される、という見方です。
そうした中位職の代表格である一般事務職は、日本では求人倍率が既に 0.3 程度と低くなっており、今後もこうした職種がより置き換えられやすくなることになります。
実際、経産省の2026年3月に更新された2040年の就業構造推計(改訂版)の職種間ミスマッチでは、事務職が大きな余剰を抱えるだろうと見なされています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/030_s02_00.pdf
その結果、労働者には
- より高位職へ頑張っていくか
- 低位職(という言葉は使いたくないですが…)に移るか
という圧力がかかることになります。
また低位職が十分な給与が払われて、働きがいのある人間らしい仕事であれば、AI-assistedな仕事と言えますが、そうでなければ AI-supervised な仕事、いわば人をただひたすら効率的に働かせるような、厳しい上司がつくような形となってしまいます。(今の一部のギグワークのプラットフォーマーのような)
また現在、中位職はそこそこの賃金がもらえる多くの雇用を生み出し、受け皿となっています。ここが崩れると、貧富の差の拡大等で社会の不安定さは増してくることになります。
影響の集中

さらに「どこに」影響が出るのかは、かつての製造業のチャイナショック(中国との貿易拡大による先進国の製造業の衰退)が一部地域に色濃く影響が出たように、AIも地域や職種にかなり偏りが出そうです。
さきほどの Economist の記事でも、教育などには影響がなく、最も影響を受けやすい上位20%の分野(計算機科学、コンピュータ工学、情報科学など)では、6.6ポイントもの下落という指摘がありましたし、国際労働機関 (ILO) の2025年のレポートでは、世界の労働者の約4分の1が生成AIに何らかの曝露を持ち、最高曝露カテゴリは世界雇用の3.3%とされていますが、特に、
- 事務職
- 高所得国
- (特にこうした職に就いていることが多い)女性
での曝露が大きいとされています。ILOはこれを単純な「雇用喪失」ではなく、「仕事の変容」として見ています。
こうした一部の職種やジェンダーに偏るということは、このAIの影響はジェンダーの問題でもあります。日本でも事務職は女性雇用の大きな受け皿であり、AIによる省力化が進む場合、女性が多く就く職務の入口が先に細る可能性もあります。これはダブルインカム前提の首都圏の家族や、シングルマザー家庭の収入や生活にも大きな影響を与える可能性も大きいでしょう。
「キャリアのはしご」の変化

それだけではなく、同じ仕事であっても、「仕事の入口」が変わりつつあるとも言えます。
AIが置き換えやすいのは、若手が最初に任される仕事です。議事録や調査、提案書や契約書のドラフトを書くといった仕事は単純作業のようですが、実際には若手が仕事を覚えるための訓練でもありました。
AIがそうした仕事を削ることで企業は効率化できるでしょう。しかし同時に、若手が仕事を覚えるための経験も削られていきます。つまり、企業内での訓練機会が減り、将来の中堅人材を育てる機能が減る可能性があるということです。
実際、Anthropicは、高曝露職で失業率が明確に上がっているとはしていませんが、22〜25歳の若年層については、高曝露職への就職が鈍っている可能性を示しています。Stanford Digital Economy Labの研究も、22〜25歳のAI高曝露職で、早期キャリア層の雇用が相対的に減っていると報告しています。
ここで重要なのは、「若手の仕事が減る」というだけではなく、将来の中堅や専門職を育てるための、キャリアのはしごが細ることです。そうすると、入職の激戦を制してエントリーできたとしても、その後のキャリアアップが難しくなる、ということでもあります。産業用ロボット関係で起こった同様の「製造業におけるキャリアのはしごの崩壊」を、Brookingsの論考をひいて以前紹介したこともありますが、産業用ロボットによる自動化でもAIによる自動化でも同様でしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=A7hgeUXhxBk
教育の変化

こうした雇用の変化は、教育にも大きな影響を与えます。
これまでの日本企業は、学生をポテンシャルで採用し、メンバーシップ型雇用を行って、入社後に育ててきました。
その前提には、大学で何を学んだかよりも、どの大学に入ったかという学校歴が強いというものがありました。そしてそれは、日本の私立大学の人文社会系の多さを許容することにもつながります。人文社会系は設備投資などが比較的少なく、私立大学の拡張と専攻の相性が良かったためです。また就職を見てみても、企業から評価は卒業証書や学校歴に寄りすぎており、メンバーシップ型の採用が行われ、会社でOJTをすることで育つのであれば、学修内容を職業能力に反映する必要もそこまで高くありませんでした。
しかし、AIが文書作成、調査、要約、事務処理、一次分析を担えるようになると、「ポテンシャルはあるが、まだ何もできない人」を採る理由が相対的に弱くなります。そうすると大学卒の若年層の雇用は徐々に細っていくことになるでしょう。さらに入ったとしても、その後のキャリアを登っていくための階段は細まる可能性があります。
逆に、高校卒業生のニーズは高まり、現在でも高卒就活の求人倍率はかつてなく高まっています。

リクルートワークス「高校卒就職の最新状況―経年変化の分析から」 https://www.works-i.com/column/labor-market/detail008.html
すると、
- 大学教育の中で、エントリーする前にかなり高度なスキルを身につける
- 大学に行かなくても就職できるフィジカルワークに行く
といった選択がより強まります。
並行して、日本や大比では、大学の学費や大学に行くことによる投資対効果は悪化傾向にあると推定されています。日本だけを見てみても、以下のような言及があります。
「専門的・技術的職業従事者の大学卒においては2020年には7.9年で回収できていたものが、2025年には15.0年となっている。事務従事者の大学卒においては2020年に9.8年で回収できていたものが、2025年には16.8年となった。専門的・技術的職業従事者のほうが所得水準が高い分、回収までにかかる期間が短くなるが、両職種ともにその期間が2020年から2025年にかけて長期化している明確な傾向があることに違いはない。
リクルートワークス『「大学進学」は割に合うか―学歴別賃金の最新状況』(2026年)

海外を見ると、WSJの『MBA学位の「安売り」増える米国 需要鈍化に苦慮』の記事にあるように、学費を下げていくという動きもあります。
AIは大学への投資対効果をさらに悪化させることにもつながる可能性があります。
なぜなら、4年間の逸失所得(就職していれば得られていた所得)を、「大学卒」というプレミアムが乗った給料をもらうための投資として考えたとき、フィジカルワークの給金が上がって逸失所得が上がり、学費も上がっている中で、そのAIはさらにその大学教育投資のROIを平均して悪くしてしまうことになるからです。「ブルーカラーミリオネア」という言葉が現実味を持つことで、逸失所得が高まり、大学教育への投資対効果は悪くなるということです。
大学のような高等教育は、日本における少子化に加えて、こうした圧力と戦う必要がある、ということでしょう。
教育とAI

今後、AIがより発展してくると、現在のギグワークのプラットフォーマーのように、AIが人間に指示を出すことも容易に想像できます。
つまり、これから社会に出る若手は、
- AIやAIエージェントをたくさん使って高度な仕事をする(初期から多数のAIのマネジメントする)
- AIに使われて、AIができない物理的な仕事をする
といった両極のどちらかに行くような圧力を受けやすくなるということであり、前者の教育をどのようにしていくかをある程度考えていくべきなのだろうと思います。
後者であっても、十分な給料が稼げて、働きがいのある人間らしい仕事であれば問題ありませんが、ただそうとは限らないでしょうし、そのAIプラットフォームが日本や日本国民に十分な対価を払うAIとは限らないことには注意が必要のように思います。(とはいえAIを使う側であっても、デジタル小作人的な立場になってしまうかもしれませんが…)
先ほどの「キャリアの入り口が細る」というのもこれに関わります。OJTが細っていくのなら、大学卒業後までに、かなりの能力を持つような人材を輩出するプレッシャーがかかります。あるいはそれに併せて就業前の訓練期間を延ばしたり、一度社会に出た人たちのリスキリングの受け皿を、社外の教育側が受けることになっていくかもしれません。
そうした前提でAIをどのように教育に組み込んでいくか、あたりは考えるべきことのように思いますし、かつて会社が持っていた教育機能が弱体化すると、公的な教育の機能の重要性は相対的に高まる(社会的に手当てしなければらならなくなる)と思います。
逆に今の大学教育と産業構造のままではエリート過剰生産に繋がる可能性もあると思っています。
エリート過剰生産の加速

エリート過剰生産について少しだけ解説すると、ターチンの構造人口学的理論では、大衆の生活悪化、エリート過剰生産、国家能力の低下などが重なったときに、社会の不安定化が進むとされます。そしてエリート過剰生産とは、高学歴者や専門職志望者など、高地位ポストを目指す人が、実際に用意されている椅子を上回って増えることです。
もし大学教育が現状のままであることを選びながら、
- AIが良い仕事のポストを相対的に減らし、
- 仕事への入口とはしごを細らせ、
- 大学教育へのROIをより低下させる
としたら、それは現在よりも相対的に「エリート過剰」な状況になるでしょう。それは高学歴層の期待と現実のズレを広げ、社会的な不満を増幅する要因になりうるように思います。
ターチン自身も2023年に「AIがカウンターエリートを生む」と述べています。一方で、2026年の日本についてのインタビューでは、若年層の増加を伴っていない今回の変化は特異であり、どうなるか分からないと慎重姿勢です。
いずれにせよAIは、日本においては「人口減少を緩和する」という恩恵を受ける面があり、それは正しい面もあるのですが、雇用や労働、教育の再設計をしなければ、ミスマッチが増えて、社会の不安定さが増す可能性は十分にあるということです。また前述したように、女性の職に大きな影響を与えるのであれば、それはジェンダーの問題としても表出してくるでしょう。
今後
このまま進めば社会が不安定化することがある程度予想できるのであれば、この問題は、大学や教育だけではなく、社会としてどう対処するべきかを考えていかなければなりません。
AI税などの事後の再分配(AI企業に高い税をかけて、それを原資に給付する等)をする手もありますが、これにはAI企業側の租税回避や政治的抵抗をどうするか、といった実装上の問題や、AI税をかけることによるAIの導入遅延・生産性向上の低下といった副作用もあります。現実的には、再分配機能を強化しつつも、事前分配を手当てしたほうがよいのだろうと思います。
また「大学に行く人を減らせばいい」「大学を減らせばいい」という乱暴な方向性も検討は可能ですが、フィジカルワークの多くは国内のエッセンシャルなサービス産業であり、それは意味のある仕事ですが、ケア労働や教育などは公定価格で抑えられ気味で、基本的に外貨を稼ぐ産業ではないため限界があります。
観光などもありえますが、関連するサービスは労働生産性が低く、高めることは難しい産業です。また観光は、公共交通網や文化財等の社会的資源の余剰を使って行われるものであることを考えると、今後人口減少によって社会的資源の維持や増強が難しいであろうことを考えると、観光の推進は定住民との軋轢を増す要因にもなります。

グローバル経済の恩恵を今後も受けていく前提として考えるのであれば、かつての豊かな中間層を生み出すような、「良い雇用の数」をどのように増やしていくのかを考え、より稼げる産業を作り、そのための優れた教育を行い、より多くの人を高位職に移していくことを狙う方がよいのだろうと思います。
その高位職にエントリーするために、従来よりも高い職業能力が求められるなら、そのために教育も変えていく必要があるのでしょう。そしてそうなると公的な教育の価値や立ち位置も変わってくるはずです。
最近『教育の加速』という記事でも書きましたが、より短い期間でより高位な職に就けるような教育、そのなかにAIをどう組み込むか、そしてAIを前提としたリテラシーと職業能力のための教育が求められているのではないか、と改めて思います。(すべての教育が職業のためではないのですが…)
今の中等教育・高等教育が、電気の発展以後・戦後の製造業の形式に沿って作られた、認知作業をこなせる人材を数多く輩出することを前提にしたものであれば、AI以後の教育はどうあるべきなのか、そしてどういった産業に人材を振り向けていくべきなのか、そうした点を合わせて考えていく必要があるのだろうなと、そうしたことを考えています。
短期的には、AIを使わせないようにするのではなく、AIを使って学生の皆さんの職業能力を上げることを考えつつ、そうした高度な技能を持つ学生の皆さんが就ける職業を増やす(そうした会社や産業を増やす)というのを、大学側も責任を持ってやっていかなければならないのだろうと思います。
そしてそれは単にAIを使いこなす方法を伝える、というよりは、「AIを使ってどういった新しい価値を創造するか」という、AIを使って可能になる産業や企業をもっと深く考えていく、ということなのだろうと思います。
