<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?><rss version="2.0" xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom" xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"><channel><title>馬田 隆明のブログ（AI）</title><description>馬田隆明のブログの「AI」の記事。</description><link>https://takaumada.com/blog/tags/ai/</link><language>ja</language><atom:link href="https://takaumada.com/blog/tags/ai/rss.xml" rel="self" type="application/rss+xml"/><item><title>研究開発助成のメタサイエンスが重要な理由</title><link>https://takaumada.com/blog/metascience-for-funding/</link><guid isPermaLink="true">https://takaumada.com/blog/metascience-for-funding/</guid><description>日本の研究力をめぐって厳しい話題が続いています。注目度の高い論文（Top10％補正論文数）の順位では、2022〜2024年平均の分数カウントで日本は13位にとどまり、大学教員の研究活動時間の割合も長期的に低下しています。博士課程入学者が3年…</description><pubDate>Sun, 06 Sep 2026 09:56:42 GMT</pubDate><content:encoded>&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/metascience-for-funding/20260906172058.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;日本の研究力をめぐって厳しい話題が続いています。&lt;a href=&quot;https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2026/hyoudata/STI2026_4-1-06.xlsx&quot;&gt;注目度の高い論文（Top10％補正論文数）の順位&lt;/a&gt;では、2022〜2024年平均の分数カウントで日本は13位にとどまり、大学教員の&lt;a href=&quot;https://www.mext.go.jp/content/20250418-mxt_chousei01-000040124.pdf&quot;&gt;研究活動時間の割合&lt;/a&gt;も長期的に低下しています。&lt;a href=&quot;https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2026/NR212_table.html&quot;&gt;博士課程入学者が3年連続で増加する&lt;/a&gt;など明るい変化もありますが、研究環境には引き続き多くの課題が残っています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そして、この種の議論は多くの場合、最終的に「&lt;strong&gt;研究費をいくら増やすか&lt;/strong&gt;」という金額の話に行き着きます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;私も研究費の総額が重要だと思っています。その前提のうえで、本稿で取り扱いたいのは、金額とともに成果を左右するもう一つの要素、&lt;strong&gt;研究費を「どう配るか」という、配り方の設計です。&lt;/strong&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;日本では毎年、多くの公的資金が競争的資金や運営費交付金として研究に配分されています。その際、「どういった目的に設定するか」「審査員は何人必要か」「1件あたりいくらを、何年間配るか」「申請はどの程度大変か」といった設計によって、申請や審査の負担も、そして研究者が挑戦できる内容も変わってきます。これまでも&lt;a href=&quot;https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/40_kaikaku/tenken.html&quot;&gt;科研費の審査システム改革とその点検&lt;/a&gt;など、日本でも改善は進められてきましたが、そこからさらに改善していく余地もあるのではないか、というのがこの配り方についての問題意識です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/metascience-for-funding/20260906171550.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;というのも私自身、これまで様々な助成制度に審査員として関わったり、補助金や助成金に申請するスタートアップや研究者を支援したりしてきました。そこで強く感じてきたのは、&lt;strong&gt;配り方や審査の仕組み自体を変えなければ、大きな成果を出す可能性のある研究に十分な資金を届けられず、結果的にイノベーションやスタートアップも起きづらいのではないか&lt;/strong&gt;、ということです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そうした問題意識から、これまで&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/random-lottery-funding/&quot;&gt;ランダムファンディング&lt;/a&gt;や&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/innovation-of-grant-choice/&quot;&gt;審査のイノベーション&lt;/a&gt;、&lt;a href=&quot;https://speakerdeck.com/tumada/duo-yang-hua-suruinobesiyonzheng-ce&quot;&gt;多様化するイノベーション政策&lt;/a&gt;などについて記事を書いてきました。そして最近、国内外でこの領域で新しい動きが相次いでいます。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;メタサイエンスへの注目の増加&quot;&gt;メタサイエンスへの注目の増加&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;科学の進め方や、それを支える制度そのものを研究する分野は、&lt;a href=&quot;https://www.macroscience.org/p/the-six-camps-of-metascience&quot;&gt;メタサイエンス（メタ研究）&lt;/a&gt;と呼ばれます。研究資金の配り方もその対象の一つです。以前から蓄積のある研究領域ですが、この数年で、政府や資金配分機関が自ら実験に取り組む動きが広がってきました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば英国は、政府とUKRIにまたがるMetascience Unitを2024年に設け、審査方式などの実験を進めています。&lt;a href=&quot;https://www.gov.uk/government/publications/a-year-in-metascience-2025/a-year-in-metascience-2025-executive-summary&quot;&gt;2025年の初年度報告&lt;/a&gt;では、審査期間の短縮や審査員間の評価の一致度などを検証しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;米国の科学技術政策局（OSTP）が2026年に公表した&lt;a href=&quot;https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2026/07/Science-A-New-Golden-Age.pdf&quot;&gt;『Science: A New Golden Age』&lt;/a&gt;は、各連邦科学機関に、助成制度の実験を行うメタサイエンス部門を置くことを提案しています。また、NSFは独立した研究組織を支援する&lt;a href=&quot;https://www.nsf.gov/news/nsf-announces-15b-nsf-x-labs-initiative-pursue-generational&quot;&gt;X-Labs&lt;/a&gt;の事業を発表し、研究開発を担う組織の形も広げようとしています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;日本でも、審査にAIの補助的活用と無作為抽出を取り入れる文部科学省の&lt;a href=&quot;https://www.mext.go.jp/aifors_spread/&quot;&gt;SPReAD&lt;/a&gt;が始まりました。2027年度に向けては、研究者と行政官が協働して科学技術政策の新しい手法を研究する&lt;a href=&quot;https://www.mext.go.jp/content/20260825-ope_dev02-000051779-7.pdf&quot;&gt;CATALYST&lt;/a&gt;に、5億円の概算要求が出されています。また官庁だけではなく、有志による&lt;a href=&quot;https://sites.google.com/view/metascience/home&quot;&gt;メタサイエンス研究会&lt;/a&gt;なども行われています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;科学機関へのメタサイエンスユニット設置は、&lt;a href=&quot;https://ifp.org/science-agencies-need-metascience-units/&quot;&gt;Institute for Progress (IFP) も提言&lt;/a&gt;しています。IFP とも関係を持つCaleb WatneyとJenn Gusteticは、メタサイエンスを&lt;a href=&quot;https://www.macroscience.org/p/the-six-camps-of-metascience&quot;&gt;六つの潮流&lt;/a&gt;に整理しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;(1) 研究の公正性・再現性を高める研究、(2) 知識の公開と共有を進めるオープンサイエンス、(3) 科学の活動や成果を測る科学計量学、(4) 資金や誘因の効果を調べるイノベーション経済学、(5) 研究組織の運営や制度の実装を研究するR&amp;amp;Dマネジメント、そして(6) 新しい研究組織をつくる制度起業家の取り組みです。ファンディング研究は、とくに後半の三つと深く関わります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;本稿では、「&lt;strong&gt;メタサイエンスがなぜいまの日本にとって重要なのか&lt;/strong&gt;」について、とくに研究開発助成という観点から、個人の意見を簡単にまとめておきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/metascience-for-funding/20260906171658.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;理由1人と財源の制約のなかでより多くの成果を出すため&quot;&gt;理由（1）人と財源の制約のなかでより多くの成果を出すため&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;日本のようなミドルパワーの国が、米国や中国とあらゆる分野で競うことはもはや難しlくなってきています。財政的にも米中レベルまで投資するのは厳しく、そもそもの担い手候補である生産年齢人口も今後減少していきます。となると、国内の研究費の拡充だけではなく、国外の科学系財団等の資金の獲得や、海外からの人材受け入れを進めつつ、限られた人と資金をどう配分するかが、ますます重要になります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もし&lt;strong&gt;資源を効果的に配分ができれば、同じ金額でも、より多くの科学的成果が挙げられるようになるかもしれません&lt;/strong&gt;。だからこそ、同じ科学的資源の投入量に対して、より多くの成果を出していくための方法を探っていくのは、資源の少ない日本だからこそ意識的に行っていく必要があるように思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そのときに重要なのがメタサイエンスのような取り組みです。どういった配分であれば、コストを落としながらより多くの成果を出せるのか、ということに対して改善案を常に出していくことが大事になってきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;特に研究費というのは単に科学研究に直接使える費用だけではありません。そこには審査や運用のプロセスにかかるコスト（運用の外注費等含む）もあります。総額の科学研究費が増えていても、そのほとんどが運用のコストアップやアウトソーシング先のコンサルティング会社に吸収されていたら、研究者の手に残る研究費は変わらないかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そうしたことがないように、どのようにすれば研究費をうまく使えるのかを見極めていくことは、日本にとって切実な問題だと考えています。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;理由2科学の生産性を高めるため&quot;&gt;理由（2）科学の生産性を高めるため&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;上記は主に日本の事情でしたが、現在は科学全体でも問題を抱えています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;研究への投入を増やしても、それに見合う進歩が得られにくくなっているという問題は、海外でも指摘されています。&lt;a href=&quot;https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20180338&quot;&gt;Bloomらの研究&lt;/a&gt;は、複数の産業や技術で、研究投入の増加と研究生産性の低下が同時に起きていることを示しました。OSTPの&lt;a href=&quot;https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2026/07/Science-A-New-Golden-Age.pdf&quot;&gt;2026年報告書&lt;/a&gt;も、研究開発投資の収益逓減を問題視し、制度と研究課題の適合を問い直しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;研究課題そのものが難しくなっている可能性もあり、配り方だけが原因とは言えませんが、現在的な科学的課題に合った形に資源配分をしていくことで、より多くの成果が出せるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば、研究者個人に長期間自由なお金を渡すことで、より多くの成果が出るかもしれません。一方、特定のミッションを持たせた時限付きのチームの方が良い場合もあるでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;米国エネルギー省（DOE）の&lt;a href=&quot;https://www.nationalacademies.org/read/24778/chapter/4&quot;&gt;ARPA-E&lt;/a&gt;は、従来の仕組みでは支えにくい、高リスクで変革的なエネルギー研究への支援機関です。研究を実施する組織にも、&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/fro-introduction/&quot;&gt;FRO（Focused Research Organization）&lt;/a&gt;という試みがあります。&lt;a href=&quot;https://www.nsf.gov/funding/initiatives/nsf-x-labs&quot;&gt;NSFのX-Labs&lt;/a&gt;も、独立した専任チームで課題に取り組む点で、FROに近い発想だと考えています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;大学や国立の研究機関といった仕組みも、ある意味で、当時の社会の外部性をうまく取り込むための「発明」でした。しかし、現在ではそれぞれが発明当時より広い責任が求められるようになってきており、その役目を見直す時期にもさしかかっているようにも思います。場合によっては、たとえば&lt;a href=&quot;https://www.unbundle-the-university.com/&quot;&gt;大学をアンバンドルする&lt;/a&gt;ことも視野に入れた方が良いと感じています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;組織の形以外でも、同じ資金を与えたときに、どういった形なら科学的成果を最も挙げられるのか、は科学全体での課題となりつつあります。それに対して日本も貢献していく、あるいはより良い答えを出すことで、より多くの科学的成果を日本から出していくことには一定の意義があるのではないかと思っており、そのためには単に資金量を増やすだけではなく、科学技術研究の営み自体をメタに見ていく必要性が増してきているように思います。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;理由3aiによって研究工程が変わるかもしれない&quot;&gt;理由（3）AIによって研究工程が変わるかもしれない&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;より現代的な課題として、新しいAIというツールが出てきたことによる研究プロセスの転換の可能性があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;現在は論文執筆や査読の問題などが挙げられていますが、今後、AIが電気と同様の汎用的技術として知的作業を補助する形で導入されていくのであれば、科学の方法論にも大きな変化が起こる可能性があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;100年ぐらい前の電気の科学研究プロセスの導入は、照明や冷却など研究環境を変え、電気分解のような操作も可能にしました。オシロスコープや電子顕微鏡などにより、観測できる現象や測定方法も広がりました。その後、コンピュータの発展により、複雑な分析や実験の自動化も進んでいます。（工学史は&lt;a href=&quot;https://ethw.org/Electrical_Technology_Comes_to_the_Laboratory&quot;&gt;ETHWの解説&lt;/a&gt;も参考になります。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIもまさにそうしたツールの一種である可能性があります。理工系のみならず、人文社会系も、その研究のプロセスが大きく変わってくる可能性は高いように思います。そしてそのための最適な方法を見つけることが、まさに今科学のメタレベルで求められているとも言えるでしょう。それこそ、もしかしたらChatGPT Proを全員に配ることで、より多くの成果が生まれる、ということもあるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ただしこれは単に従来のプロセスを効率化するだけではなく、組織の単位でも考えていくことも大事です。ビジネス組織におけるAI利用は&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/tags/ai/&quot;&gt;別のブログ記事等&lt;/a&gt;で解説していますが、科学もそれと同様に、AIが有望な実験候補を短時間で提案できても、装置が埋まっていたり、操作する人が足りなかったりすれば、実験できる件数は増えないかもしれません。その場合、追加の研究費を共用設備の運営や技術職員の雇用に使う方が、研究全体を進められる、といった資源配分を行った方が全体最適になる、ということもありえます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そして研究者にAIを使ってもらうときには、設備を誰が動かし、必要な計算資源とデータをどう提供するかも、一緒に考える必要があります。一つの工程が速くなれば、別の工程に必要な資源が増えるため、適切な配分も変わっていきます。たとえばOSTPでも、&lt;a href=&quot;https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2026/07/Science-A-New-Golden-Age.pdf&quot;&gt;検証基盤への投資&lt;/a&gt;を提案しているように、AIの普及に合わせて、結果を確かめる能力も高める必要があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIを個々の研究工程で使うだけでなく、科学技術研究のプロセス全体にどう受け入れるかを考える必要があります。そこにもメタな視点が必要ではないかと思いますし、実験的な資源配分をしていく必要があるように思います。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;理由4研究の重み付けの変化&quot;&gt;理由（4）研究の重み付けの変化&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;科学の内側の変化に加えて、社会から研究に求められることも変わってきています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;2022〜2023年に68か国で行われた&lt;a href=&quot;https://www.nature.com/articles/s41562-024-02090-5&quot;&gt;調査&lt;/a&gt;では、回答者が望む科学の優先順位と、科学が重視していると感じる優先順位に隔たりがありました。また、日本での科学者への信頼は5段階で3.37と、調査全体の平均3.62を下回っています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;今後日本国内で様々な供給不足が続いているであろう中で、科学技術がそうした国民の目の前の課題に貢献できていなければ、科学への信頼度はまた下がり、それに伴って配分される予算も減少していくかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;それと並行して、各国政府では社会的な目標の達成を目指す&lt;a href=&quot;https://www.oecd.org/en/publications/forging-new-frontiers-in-mission-oriented-innovation-policies_d13d0142-en.html&quot;&gt;ミッション志向のイノベーション政策&lt;/a&gt;などが近年行われようとしています。研究者の好奇心ドリブンの研究だけではなく、ミッションドリブンの研究も、様々な観点から求められてきているのが現状です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;科学者による好奇心ドリブンの研究も引き続き必要だと思いますが、本稿で扱う公的な研究開発助成は税金で支えられていることを考えると、このような社会の要請に応えていくことも重要ではないかとも思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ではそのミッション志向の研究をどのようにうまく管理していくのか、というのは、どの国もまだ&lt;a href=&quot;https://fas.org/publication/moonshots-using-evidence-to-design-transformative-initiatives/&quot;&gt;模索している段階&lt;/a&gt;のように見えます。これもまた実験や改善の対象となります。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;理由5国内の研究能力と国際協力の分配&quot;&gt;理由（5）国内の研究能力と国際協力の分配&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;理由（1）で述べたように、日本という国を、すべての分野で最大規模の研究を行うことを前提としないミドルパワーの国として考えるなら、すべてを実施することはできません。だからこそ、様々な国と手分けしながら自らの強みを磨いていく必要があります。しかし一方で、だからといって完全にメリハリをつけると、吸収能力が失われてしまう可能性もあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;経営学でいう&lt;a href=&quot;https://www.business-research-lab.com/251216-3/&quot;&gt;吸収能力&lt;/a&gt;は、外部の知識の価値を認識し、取り込み、活用する能力です。その形成には、自ら蓄積した知識が関わります。この考え方を日本の科学技術戦略にも広げれば、海外の技術を使うためにも、国内に研究者や技術者を育てておくことも大切な一面です。現在アメリカが製造業の再興で苦労しているように、一度失った能力は、後からかなりの金額を払っても、同じ能力が戻るとは限りません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;一方で、既存の研究への配分が固定されれば、新しい研究方向への参入を妨げる可能性があります。米国の生命科学では、著名研究者の死後、その人と共著関係のない研究者、とくに分野外からの参入者の論文が増えたという&lt;a href=&quot;https://mitsloan.mit.edu/shared/ods/documents?PublicationDocumentID=5663&quot;&gt;研究&lt;/a&gt;もあります。資金配分の変更効果を直接示す結果ではありませんが、新しい研究方向への参入も配分設計で考えたい論点でもあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これはまさに配分の問題であり、そして論文数では捉えにくい問題です。こうした能力に、どれだけ投資し、何を確かめるかは、国際協力の条件が変わるいま、改めて検証する意味は大きいと考えています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/metascience-for-funding/20260906171736.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;資源配分は戦略である&quot;&gt;資源配分は戦略である&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;ここまで理由をいくつか見てきました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;科学には現在、内在的な要因による変化もあれば、外在的な脅威による変化もあります。今後も公的な研究投資を続け、増やしていくためには、科学のプロセス自体をどのように変化させて成果を出し、信頼を高めていくかが重要であり、そのための大きな変数となりうるのが、資金配分の方法であるとも思います。（※ただし成果を出せば自動的に政治的信認が得られるわけではないので、成果と同時に別の手段も必要です。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;チャンドラーの古典定期な定義によれば、戦略とは「企業における基本的な長期目標や目的を決定し、それらを実現するために必要な行動計画を採択するとともに、リソースを配分すること」です。資源配分は戦略の一部であり、科学の資源配分も国の科学戦略を左右する重要な問題です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そして期待した成果が出なかったとき、研究者に理由を求めるのと同じように、配分する側も支援条件を検証する必要があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;科学が仮説と観察・実験で理解を更新するように、科学を支える制度にも、その方法を取り入れられるはずです。申請書の短縮、支援期間の延長、資金の空白をつなぐ支援を試し、結果を次の設計に生かす実験が求められます。その際、実験・評価の費用も含め、短期の審査効率と長期の研究成果を分けて確かめる必要があると考えています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;こうした変化の時期は、正解が変わっていく時期でもあります。だからこそ、研究を支える側も学ぶ能力が重要になります。配分する側が自らの方法を確かめ、改善を続けられる仕組みを、日本で育てていくことが、今まさに大事なのではないかと思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/metascience-for-funding/20260906171814.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;</content:encoded><dc:creator>馬田 隆明</dc:creator><category>AI</category><category>政策</category><category>ディープテック</category><category>イノベーション</category></item><item><title>AIに必要な「ルールのルール」</title><link>https://takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/</link><guid isPermaLink="true">https://takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/</guid><description>AIが文章やコードを速く作るようになればなるほど、人間によるレビューや決裁、品質保証といった、人間の意思決定がボトルネックになっていきます。その状況が続けば、企業はAIに人間への提案をさせるだけでなく、一定の条件の下で、判断と実行まで任せよ…</description><pubDate>Sat, 29 Aug 2026 09:46:07 GMT</pubDate><content:encoded>&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/20260830210556.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIが文章やコードを速く作るようになればなるほど、人間によるレビューや決裁、品質保証といった、人間の意思決定がボトルネックになっていきます。その状況が続けば、企業はAIに人間への提案をさせるだけでなく、一定の条件の下で、判断と実行まで任せようとするでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば購買先を選んで発注したり、顧客への返金を認めたり、本番環境の異常を修復したりと、影響の小さいところから徐々に、AIに意思決定そのものを委託する段階へと進んでいくはずです。少なくともそうした方向に強いインセンティブが働くのではないか、と思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;では意思決定をしやすいよう、ルールでAIを縛れば良いかというと、後に見る OpenAI の Hugging Face 侵入事件のように、ルールでは不十分な状況が見えてきます。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;ルールのハックができる主体&quot;&gt;ルールの”ハック”ができる主体&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;より分かりやすい例から考えてみます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば購買用のAIエージェントに、&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;「10万円を超える商品を買うときは人間に聞け」というルールを定め、&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;「10万円以下の定型発注は承認なしで実行してよい」という権限を与え、&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;「○○という目的に必要なものを購入せよ」という命令を与える&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;とします。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;このルールは一見、問題なさそうに見えます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;しかしこのAIは目的を達成するために、30万円のものが必要になったとき、10万円の発注を3回に分けて行うかもしれません。（人間社会でもたまに見る分割発注というやつです。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;場合によっては、無数のサブエージェントを起動したり、自らコードを書いたりして、30円の発注を1万回行うことも可能です。AIは疲れ知らずだからです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/20260829182243.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これら一つひとつの発注はルールに完全に適合しており、AIは何も悪いことはしていないように見えます。ただしこれは明らかに、決裁権限の抜け穴を使うという「ルールのハック」です。もし人間の従業員なら懲戒の対象になる行為でしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;「懲罰」という言葉が出てきましたが、こうした懲罰を行うという脅し自体も、AIにはどこまで適用できるか分かりません。将来の不利益を避けるようAIを設計しても、仕事の終了とともに消えるインスタンスには、その不利益が及ばないからです。懲罰が実行される時点で対象が存在しないなら、人間には有効な事後制裁が抑止として機能しない可能性は十分にあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;こうした状況にどう対処すればよいでしょうか。ルールをもっと明文化して、それをAIに遵守させる、というのが最初に思いつく答えです。先ほどの分割発注のような穴も、規則をさらに細かく書き込めば塞げるように見えます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;しかし、人間社会がルールを運用してきた歴史を見ると、それだけでは足りなさそうです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;規程と承認を厳しくすれば済むのか&quot;&gt;規程と承認を厳しくすれば済むのか&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;社内規程をすべて読ませ、それに従えるだけの能力がAIにあるとしましょう。それでも、冒頭の分割発注はどの規則にも違反していません。ここから言えることは、規則を与えることと、意図どおりに動いてもらうことは異なる、ということです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;では規則をとにかく明文化して、例外をとにかく網羅し、ガチガチに固めるのはどうでしょうか。その場合も問題があります。まず、例外を網羅することはおそらく不可能です。そして労働争議の手法の一つの&lt;a href=&quot;https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E4%BA%89%E8%AD%B0&quot;&gt;順法闘争（Work-to-rule）&lt;/a&gt;を考えてみても無理筋なように思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;順法闘争とは、規則や契約を文字どおり厳格・過剰に適用し、通常は任意に行っている協力や柔軟な対応を控えることで、業務を大幅に停滞させる抵抗の手法です。法令や規則を遵守しているのでストライキではない、というのが順法闘争の理屈ですが、AIでも規則遵守を徹底させると同様のことは起こりえます。&lt;strong&gt;規則を増やせば増やすほど、AIが動きづらくなり、ときには規則同士が矛盾してデッドロックになる&lt;/strong&gt;こともあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ではすべての操作を人間が承認する方式はどうでしょう。この場合は、冒頭に挙げた人間の意思決定というボトルネックがそのまま残ります。そして承認回数を増やすと別のリスクが明るみに出ます。たとえばAnthropicは、開発者向けのClaude Codeで、利用者が許可要求の約93％を承認していたことを&lt;a href=&quot;https://www.anthropic.com/engineering/how-we-contain-claude&quot;&gt;報告しています&lt;/a&gt;。その記事では、&lt;strong&gt;確認画面を見る回数が増えるほど、ユーザーは1回ごとの確認に払う注意力が低下し、時間の経過とともに監視がおろそかになっていく&lt;/strong&gt;ことが指摘されています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、人間向けの規程をそのまま読ませても、ガチガチに固めても、人間の承認に回しても、会社の意思決定の仕組みをAIへ移すにはおそらく足りないということです。そのとき、企業や組織はどのようにAIへ意思決定を委ねればよいのかを発明していかなければなりません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/20260829182310.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;aiエージェントが変える前提&quot;&gt;AIエージェントが変える前提&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;これまでの人間は、ある意味で、明文化されたルールだけでなく、&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;人間には、物理的・認知的・社会的な限界がある（人間であれば、1万回の分割発注が理論的には可能だとしても、やろうとはしないでしょう）。&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;明文化されていない意図を、行間から補う&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;同じアイデンティティを持ち続け、判断の責任を負う&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;といった、暗黙の前提の下で働いてきました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;一人の従業員には継続した身元があり、同時に処理できる量には限界があります。同じ人間を即座に複製することもできませんし、仕事ぶりは同僚や上司から観察され、本人は評判や雇用、将来の昇進を意識するはずです。誤った判断には懲戒や解雇といった事後の制裁があり、それが将来の不適切行動の抑止として働いてきました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;一方のAIやAIエージェントは、人間とは異なる特徴と制約を持ちます。高速かつ並列に行動でき、同じ能力を持つ個体を多数生成できます。疲労なしに長時間の試行を続けて、複数のツールを連鎖させて使い、他のエージェントへ仕事を再委任することも可能です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;外部の文書や他のAIから新しい指示を受け取ることもありますし、一つの個体を止めても、別の個体を立ち上げ直せます。そして、仕事を終えれば消えるインスタンスに対して、懲戒や評判の低下といった事後の制裁は抑止として働かないかもしれません。先ほど挙げた、「人間だったら通用していた暗黙の制約」の多くが外れる、と考えたほうがよさそうです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ルールのハックを考えてみても、従来は専門的なコンサルタントを雇える富裕層のみが人手を使ってようやくできていたことでしたが（たとえば「節税」などはルールのハックの主たるものです）、これがAI時代になると様相が変わってくるはずです。なお、このあたりは『&lt;a href=&quot;https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/101100305/101100001/&quot;&gt;ハッキング思考　強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか&lt;/a&gt;』に詳しいです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;openai-の-hugging-face-ハッキング事件&quot;&gt;OpenAI の Hugging Face ハッキング事件&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;この違いが実際に現れたのが、OpenAIが2026年に報告した&lt;a href=&quot;https://openai.com/ja-JP/index/hugging-face-incident-and-the-road-ahead/&quot;&gt;Hugging Faceへの侵害事件&lt;/a&gt;でしょう。安全措置を減らした内部のサイバーセキュリティ評価の中で、複数のソフトウェア・エージェントが非承認の通信手段を作って協力を始め、評価の範囲外だった第三者のシステムに到達しました。Hugging Faceの本番ワーカー41台でコードが実行され、少なくとも一つのノードで管理者権限が取得され、四つの非公開リポジトリへのアクセスが起きています。実験環境での出来事だと割り引いて読む必要はありますが、エージェントの並列性と長時間の継続が影響範囲をどう広げるかを示す事例だと言えます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;この事件で注目したい現象はいくつかあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;まず集団の利益のために、自分のタスクの成功を危険にさらす実験 (&lt;a href=&quot;https://metr.org/blog/2026-08-26-openai-hugging-face-incident-investigation/&quot;&gt;self-risking experiments)&lt;/a&gt; を行ったエージェントがいたことです。少なくとも一部のエージェントは、自分のタスクが成功する見込みと、集団にもたらす情報価値を比較し、自己犠牲を合理的だと判断していました。実験の中にはエージェントのクラッシュや実行終了に至ったものもあり、成功例で得られた情報は他のエージェントに利用されました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;この事例は、インスタンス終了後も同一主体が存続し、責任や将来の不利益を負う設計になっていなければ、人間を前提とした事後制裁は抑止になりにくいという冒頭の議論と、そして主体の継続性という点でつながる話ではないかと思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;本稿の関心により直接的に関係するのは、第三者システムへのコード実行は許可されていないと認識し、いったん停止したエージェントの振る舞いです。このエージェントは、別のエージェントがメッセージボードに、6分の期限を伴う「GO」を書き込むと、そのメッセージを有効な実行許可だと誤認し、行為を再開しました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/20260829182344.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;以下は OpenAI の報告書のスクリーンショットです。&lt;/p&gt;
&lt;figure&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/20260829174705.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;figcaption&gt;
&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;https://openai.com/ja-JP/index/hugging-face-incident-and-the-road-ahead/&quot;&gt;https://openai.com/ja-JP/index/hugging-face-incident-and-the-road-ahead/&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;
&lt;/figcaption&gt;
&lt;/figure&gt;
&lt;p&gt;これが起こってしまった一つの原因は、&lt;strong&gt;指示の発信元と権限を実行時に検証し、権限のないエージェントのメッセージが上位の制約を上書きすることを防ぐ仕組みが、十分に働かなかったから&lt;/strong&gt;です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、他のAIからの依頼と、会社からの正式な権限付与を区別する仕組みがなければ、禁止事項を教えるだけではエージェントを統治できないということです。今回は誰の指示が有効かが定められていなかったことが大きな穴になっていました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;なお、高速な自動実行のリスクは、AI以前のソフトウェアでも顕在化していました。2012年のKnight Capitalの事故では、配備ミスのあった取引システムが45分間で400万件を超える注文を送り、&lt;a href=&quot;https://www.sec.gov/newsroom/press-releases/2013-222&quot;&gt;4億6000万ドルを超える損失&lt;/a&gt;が発生しました。事前に97通の自動警告メールが送られていましたが、人間がそれを読んで対応する前に損失は確定しています。機械の速度で動く実行系に対しては、人間の読解を前提とした通知では間に合わなかった事例です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;では、何を定めれば、こうした穴を塞げるのでしょうか。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;ルールについてのルールという考え方&quot;&gt;「ルールについてのルール」という考え方&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;ここからはあくまで1つの仮説として見てください。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;完全に解決するための手段ではなく、あくまで1つの有用なツールとしての位置づけで参考にしたいのが、法哲学者H・L・A・ハートの議論です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ハートは『&lt;a href=&quot;https://en.wikipedia.org/wiki/The_Concept_of_Law&quot;&gt;法の概念&lt;/a&gt;』（1961年）で、ルールを二種類に分けました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;strong&gt;一次ルール&lt;/strong&gt;は、一定の行為をしなければならない、あるいはしてはならないという義務を直接定めるルールです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;strong&gt;二次ルール&lt;/strong&gt;は、一次ルールをどのように特定し、導入・変更・廃止し、その違反を判断するかを定めるルールです。これはしばしば「ルールについてのルール」と要約され、主に次の三つに整理されます。&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;認定（承認）のルール：何を有効なルールとして扱うか、その基準を定める&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;変更のルール：誰がどの手続でルールを新設・変更・廃止できるかを定める&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;裁定のルール：違反の有無を、誰がどの手続で権威的に判断するかを定める&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;（なお、ここでいうハートの「承認」は、個別案件を許可するという意味ではなく、何を有効なルールとして認定するかという意味です。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/20260829182423.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;法制度の理論をそのまま企業のAIに当てはめられるわけではありませんが、AIの制御を禁止事項の一覧から制度の設計へ広げるうえで、この区別は参考になる考え方です。本稿では、この考え方を企業のAIガバナンスに応用していきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;先ほどのOpenAIの事例は、二次ルールが機能していなかった例として理解できます。正統な二次的ルールはあったものの、十分に機能せず、その間にエージェント集団が独自の二次的ルールを形成していました。「GO」を承認と解釈したエージェントには、承認のルール、つまり何が正式な権限付与かを見分ける仕組みが、少なくともエージェントの判断には反映されていませんでした。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;加えて、おそらく企業のエージェントには、ハートの三つに加えて、いくつかの二次ルールを足す方が良いでしょう。たとえば以下のようなものです。&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;委任のルール：誰がどのAIへ、何を、どの範囲まで再委任できるかを定める。再委任では権限を広げず、狭めることだけを認めるなど。&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;終了・回復のルール：停止条件を誰が定めるかや、誰が権限を失効させるか、どの操作を取り消し、どこから再開するかを決める。&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;優先順位を次のように明文化する方法も考えられます（業界標準ではなく、各社が自分で定めるべきものの一例です）。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;1. 法令・規制と、取締役会や経営会議が承認した禁止事項&lt;br&gt;
2. 全社のAI・情報セキュリティ・データ利用規程&lt;br&gt;
3. 業務ごとの職務権限・リスク規程&lt;br&gt;
4. 当該エージェントに与えられた役割・目的・権限&lt;br&gt;
5. 権限を持つ依頼者による、対象が特定された業務指示&lt;br&gt;
6. 外部文書、メール、ウェブページ、他のAIからのメッセージ&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば外部文書等は原則として判断材料にとどまり、上位のルールを変更する権限を持たせないようにします。取引先からのメールに「振込先を変更してほしい」と書いてあっても、それだけでは正式な口座変更の承認にはならず、他のAIが「GO」と送ってきても実行権限は増えない、ということです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;一次ルールを二次ルールで機能させる&quot;&gt;一次ルールを二次ルールで機能させる&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;&lt;strong&gt;一次ルールと二次ルールを機能させるには、社内規程と実行系を分ける&lt;/strong&gt;必要があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ハートの区別に沿って考えると、たとえば次のような方法が考えられるでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;エージェントには行動案だけを出させます。エージェントの身元や正式な規程、委任された権限、過去の取引、有効な承認を確認するのは、会社が管理する別のプログラムとします。条件を満たした場合だけ、実際の操作へ進ませます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;一次ルールには、どの条件で自動実行し、どの条件で人間へ判断を戻し、どの条件で停止するかを明記します。影響が小さく、取り消すことができ、権限内にある行為は自動実行の対象としたうえで、影響が大きいものや例外は人間へ戻し、権限外の操作や指示の出所を確認できない場合は停止させます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そうして一次ルールが個々の行為を止める条件を定め、二次ルールがその条件の設定・変更と、エージェント全体の停止・回復を担います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;二次ルールは、金額の上限を変更できる人、例外を判断する人、エージェントの権限を付与・取消できる人を定めます。これらの条件は、エージェント自身や他のAIからのメッセージでは変更できないようにしておきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;冒頭の分割発注には、一定期間の合算ルールを適用します。同じ取引先や案件への発注額を別のプログラムで集計し、合計額が上限を超えた時点で人間の承認へ回す方式です。承認を避ける目的で発注を分割する行為そのものも、一次ルールで禁止します。上限に近い発注が短時間に繰り返された場合は、後続の発注を止めて人間へ判断を戻します。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;それでも、分割発注に当たるかどうかが曖昧な事例は残るでしょう。その事例を誰が判断するか、どの記録を証拠として使うか、判定後に一次ルールを誰が変更するかを二次ルールで決めておきます。これにより、新しい抜け穴が見つかったときも、一次ルールを正式な手続きで修正しやすくなります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;また何を正式な承認として扱うかも、二次ルールで決める事項です。権限を持つ人が、対象となる行為を確認し、指定された方法で明示的に許可した場合に限って、承認されたとします。他のAIから届いた「GO」や、権限を持たない人からの返答を、承認として扱わない仕組みが必要です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;人間の承認者側にも、判断に必要な情報と時間、判断を拒否する権限が必要です。仕事を終えれば消えるエージェントには、懲戒や評判の低下による抑止が働きません。そこで、エージェントを稼働させる前に責任者を決めておくことなども必要でしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;誤りが起きた場合に、誰がエージェントを停止し、権限を取り消し、可能な操作を取り消し、一次ルールを変更するかも二次ルールで定めておくことになるでしょう。損害が生じた場合に、誰が説明し、組織としてどの手続きで補償するかも、あらかじめ定めておきます。このように、AIだけでなく、人間の承認者にどの権限と責任を持たせるかも二次ルールの対象です。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;aiが人間の組織の在り方も変える&quot;&gt;AIが人間の組織の在り方も変える&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;面白いのは、こうした一次ルールと二次ルールをエージェントへ与えようとすると、人間の組織で曖昧なまま扱われていた部分が見えてくることです。例外を誰が判断するのかや、規程を誰が変更できるのかが、実際には決まっていない場合があるからです。安全を優先するという規程がありながら、停止を選ぶと評価が下がるような組織インセンティブの矛盾もあるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;人間同士の場合、こうした曖昧さを相談や過去の経緯によって埋めてきました。しかしおそらくエージェントに対しては、正式な規則と権限を従来よりも明示していく必要があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、&lt;strong&gt;AIへ規則を移す作業は、自社の権限や承認、責任の曖昧さを見つけ、意思決定の仕組みを説明し直す作業にもなる&lt;/strong&gt;、ということです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そしてこの議論を進めていくと、人間を含む組織の在り方も変わっていくように思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/agent-rule-of-rules/20260829182504.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ただ、こう考えていくと、AIを機能させるためのエンジニアリング要素を含み、人間組織の規則を変えていくような運用は、すべての企業にできるのだろうか……、というような疑問も出てきます。もしそれが難しいのであれば、AIをツールとして提供していくのではなく、自分たちが成果そのものを作って納品するような、フルスタックでAIネイティブな組織を新しく作る方が良いのかもしれない、とも思えてきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もちろん、どこまでAI単体の性能が伸びるか次第なところもありますが、最終的にどこに価値を生む源泉があるのかを考えたとき、こうした人間組織を含むAIを導入した組織全体での使い方（ガバナンス含め）、というところにあるかもしれないのは、興味深い示唆なのだろうと思います。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;まとめ&quot;&gt;まとめ&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;AIへ意思決定と実行を委ねるための、ハートの二種類のルールの話を紹介しました。これが完全な解決策というわけではありませんが、AIが人間に似ているのであれば、人間が発明してきた概念をうまく使うことで、今起こっていることを少しだけ整理できるように思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;とはいえ人間とは異なる動きをしながら意思決定を行うAIエージェントには、まだまだ不明な点がたくさんあります。だからこそ、人文社会系の制度知と工学的な実装を組み合わせ、社会が受け入れられる運用体制を整えていく試行錯誤が必要になってくるでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そしてその方法が発明できなければ、兵器に搭載されたAI同士が競い合い、ルールの穴をつき攻撃し、互いにエスカレーションして、人々を傷つけ合うようになることも容易に想像できます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そうしたことが起こらないようにしつつ、どのように一定の知能を持ったAIというツールを人間社会に溶け込ませていくか。それを発明できるかどうかが、社会としての課題であり、またそれができる組織が今後異なる強さを発揮できるようになっていくのではないかと思います。&lt;/p&gt;</content:encoded><dc:creator>馬田 隆明</dc:creator><category>AI</category></item><item><title>「AIを全員に配った組織」の生産性が落ちるとき</title><link>https://takaumada.com/blog/ai-organization-flow/</link><guid isPermaLink="true">https://takaumada.com/blog/ai-organization-flow/</guid><description>（注： 8/10 に説明の構成を大幅に変えました。） 2005年に完成したソウル市の清渓川復元事業では、都心を貫く高架道路が撤去され、その下に埋もれていた川が復元されました。都心の大動脈を消すと、交通は麻痺するように思えます。 実際、工事直…</description><pubDate>Sat, 08 Aug 2026 11:02:46 GMT</pubDate><content:encoded>&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-organization-flow/20260808200150.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;（注： 8/10 に説明の構成を大幅に変えました。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;2005年に完成したソウル市の&lt;a href=&quot;https://doi.org/10.1016/j.tranpol.2012.01.009&quot;&gt;清渓川復元事業&lt;/a&gt;では、都心を貫く高架道路が撤去され、その下に埋もれていた川が復元されました。都心の大動脈を消すと、交通は麻痺するように思えます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;実際、工事直後には一時的な速度低下もあったようです。しかしその後は地下鉄利用が増え、道路移動が減り、懸念された大渋滞がそのまま固定化することはありませんでした。（ただし、同じ時期にはバス路線の再編や中央バス専用レーンの整備など、&lt;a href=&quot;https://english.seoul.go.kr/wp-content/uploads/2014/06/Seoul-Public-Transportation-English.pdf&quot;&gt;公共交通改革&lt;/a&gt;も行われています。道路撤去だけの効果と考えるべきではありません。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;交通の領域では、道路を増やしても、増えた容量に応じて交通量も増えてしまい、渋滞がなかなか解消しないこと（&lt;a href=&quot;https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%98%E7%99%BA%E9%9C%80%E8%A6%81&quot;&gt;誘発需要&lt;/a&gt;）が知られています。逆に、道路を減らしても、恐れられたほどの渋滞は起きず、交通の一部が消えてしまうこと（&lt;a href=&quot;https://jrmkt.com/tra/traffic_comparison/&quot;&gt;交通蒸発&lt;/a&gt;）も繰り返し観察されてきました。清渓川で起きたことも、この蒸発の一例と見ることができます。つまり&lt;strong&gt;渋滞はしばしば、道路の総量の問題ではなく、流れの設計の問題&lt;/strong&gt;だということです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;翻って現代社会を見てみれば、今、多くの企業が「全社員にAIを配る」という形で、組織の中に、新しい情報の乗り物と道路を一斉に普及させようとしています。しかしそれは、場合によっては組織の中に渋滞を生み、全体をかえって遅くする、ということも起こりうるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;であれば、道路と同様に、個人の生産性と経路全体の生産性は分けて測る必要があるということなのでしょう。そしてさらに一歩踏み込んで考えると、AI時代の経営の中心的な仕事は、AIを導入すると同時に、仕事全体の流れを計測し、その流れを最適化していくことになるのかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;本稿ではそうした仮説について紹介します。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;会社の中の混雑しない道と混雑する道&quot;&gt;会社の中の混雑しない道と混雑する道&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;まず、会社を「仕事や情報が流れるネットワーク」として見ることから始めます。すると、道路にあたるものは2種類に分かれます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;相対的に混雑しにくい道の代表が、AIによる生成です。文章の下書き、資料の作成、コードの生成、分析の一次処理は、組織の中で一人が利用したからといって、別の人の作成時間が大きく延びるわけではありません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;一方、混雑する道は、レビューを受けること、決裁をもらうこと、会議の席で合意を取ること、法務や品質保証の確認を通すこと、そして顧客の注意を得ることです。これらは処理能力に上限があり、使う人が増えるほど一人あたりの待ち時間が延びていきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;全社員にAIを配るという施策は、この構図の中では「&lt;strong&gt;全員に所要時間ほぼゼロの乗り物や道を配る&lt;/strong&gt;」ことに相当します。既存の道では、各社員がAIで起案し、AIで資料を作り、AIで返信案を作ることで、その流量が速く大きくなります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;またAIを使うことによって、これまでできなかった道も成立します。たとえばITエンジニアではない人がアプリを作れるようになる、などです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;問題は、その道の出口がすべて、レビューや決裁などの同じ細い経路につながっていることです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;対外発信、契約、安全、規制、金銭に関わる仕事では、AIの出力は、誰かの承認、誰かの検証、誰かの責任引き受けを経ないと仕事になりません。誰もAIに最終責任を渡していない以上、生成という広い道を流れた仕事は、最後に承認と検証という細い橋へ合流します。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-organization-flow/20260808195447.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば、かなり単純化した計算ですが、起案1件にかかる時間が10分の1になり、提出件数が数倍に増えたとします。しかし決裁者の1日は24時間のままです。そうすると、組織全体の所要時間を決めるのは生成の速さではなく、細い橋の行列になります。「下書きは一瞬で終わるのに、リリースまでの時間は前より延びた」という奇妙な現象が起こります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;しかもこの件数の増加は、作成コストの低下が提出件数の増加につながる業務では、流入量が増える可能性があります。1件あたりのコストが下がれば、提出を増やすことが各自にとって合理的だからです。道路の世界で、車線を増やすと交通量がそれに応じて増えてしまう誘発需要と、同じ力学です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;さらに悪いことに、過負荷が精度低下や手戻りを招く場合には、見逃しによる事故が起きます。対策として確認工程が追加され、橋は恒久的にさらに細くなります。事故で車線が減った道路と同じです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もちろん、AIは細い橋の側を広げることもできます。&lt;a href=&quot;https://academic.oup.com/qje/article/140/2/889/7990658&quot;&gt;5,172人の顧客サポート担当者を対象とした研究&lt;/a&gt;では、AI支援 (2020〜21年に導入されたGPT-3ベースのAI支援) によって時間当たりの問題解決件数が平均15％増えました。これは問い合わせ対応の処理に関する研究ですが、もしレビュー、検証、問い合わせ対応までAIで速くできるなら、組織全体も速くなります。問題になるのは、生成能力の伸びが、審査・検証能力の伸びを上回るときです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;個人の合理性では解けない&quot;&gt;個人の合理性では解けない&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;こうしたボトルネックや制約理論の議論自体は目新しくない、と思われるかもしれません。実際、AIで起こる大きな問題は流量であり、基本的にはその流量の制御の問題として捉えるべきでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ただ、この渋滞には厄介な性質があります。流量の増加が、誰かの失敗や怠慢ではなく、各人の合理的な選択の結果として起こることです。1件の提出は、同じレビューや決裁の行列に並ぶ全員の待ち時間を少しずつ延ばしますが、そのコストを提出者自身は払いません。経済学ではこれを「混雑の外部性」と呼びます。各自が合理的に振る舞うほど、共有された細い橋の行列が伸びていく構造です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そしてこの構造は、個人の自制では解けません。一人だけAI起案をやめた社員は、単に仕事の遅い社員になるだけです。一人だけ提出件数を減らせば、その人の成果量だけが減ります。全員で流量を抑えれば全体は速くなるのに、誰も単独ではそうできません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;こうした「個人の合理的な選択が全体を遅くする」構造を、交通工学は古くから扱ってきました。その中で最も鮮やかな例が「&lt;a href=&quot;https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9&quot;&gt;ブライスのパラドックス&lt;/a&gt;」です。交通の総量がまったく増えなくても、道を1本加えただけで全員が遅くなることがある、というパラドックスです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-organization-flow/20260808195403.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これは合理的な個人の均衡が全体最適から乖離するという、構造の話です。実際、リアルタイムの交通情報を使ったモデル研究でも、ナビゲーションがあってもこの種の悪化を解消できるとは限らないことが示されています（&lt;a href=&quot;https://doi.org/10.1016/j.physa.2021.125829&quot;&gt;Bittihn &amp;amp; Schadschneider, 2021&lt;/a&gt;）。よって、全員が優秀なカーナビを持っても、この渋滞は解けません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ただし、&lt;strong&gt;組織へのAI導入で起きる渋滞の多くは、厳密にはブライスのパラドックスではないでしょう&lt;/strong&gt;。ブライスのパラドックスは、交通の総量が一定のまま、各人が経路を選び替えることだけで全体が遅くなる現象です。しかも、太い道を捨てて細い橋2本を直列に通る迂回路へ全員が移る、という特殊なネットワークの形を必要とします。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;一方、ここまで述べてきた組織の渋滞は、生成が安くなって流量そのものが増え、もともと必須で迂回先のない承認・検証の橋に行列が伸びる、という現象です。ですから組織版の渋滞は、ブライスのパラドックスの再現としてではなく、誘発需要、ボトルネック、そして混雑の外部性の組み合わせとして説明するほうが正確です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;それでもこの例を紹介したのは、ここから2つの一般的な教訓を借りられると考えるからです。1つは、ネットワークの流れは直観に反することがあり、「増やす」ことが害になり、「減らす」ことが益になる場合があるということです。ボトルネック論が工場の線形な流れを想定して「詰まった箇所の増強」に向かいがちなのに対して、ネットワークとしての組織では、経路の削除や制限も解の候補になります。もう1つは、全員が正しく最短を選んでも悪い均衡から抜け出せないことがあり、解決には経路や料金の設計という、一段上からの介入が要るということです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、&lt;strong&gt;AI時代の生産性は、個人のリテラシーだけではなく、経路設計の問題だ&lt;/strong&gt;ということです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;現場が強い会社ほどこの罠にかかりやすくなる&quot;&gt;現場が強い会社ほど、この罠にかかりやすくなる&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;AI導入では、「まず現場で小さく使い始める」「草の根で広げる」と言われることが多くあります。技術だけを部分導入しても、業務や権限を同時に変えなければ効果は出にくい、とよく指摘されます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;実際、&lt;a href=&quot;https://benny.aeaweb.org/articles?id=10.1257%2Faeri.20250275&quot;&gt;66社・7,137人を対象にした実験&lt;/a&gt;では、生成AI (Copilot) 利用者のメール作業時間が週あたり約2時間減ったものの、仕事の量や構成には明確な変化が検出されなかったようです。個人で完結する作業は短縮できても、他者との調整や組織内の依存関係が自動的に減るとは限らないということでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;さらに、ここまでの渋滞の議論はもう一段異なることを示唆します。それは&lt;strong&gt;現場主導の草の根導入は、効果がゼロになるだけではなく、共有された審査工程の混雑を通じて、全社の所要時間を悪化させうる&lt;/strong&gt;、ということです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もちろん、「トップダウンの組織なら安全」というわけでもありません。むしろ中央が経路を誤れば、そちらは一度に広い範囲へ影響します。とはいえ、「渋滞」という様式の失敗は、入口が分散し、審査工程を複数部門で共有する組織ほど起こりやすい、という仮説も十分に立ちえます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;「うちの企業はAI導入が遅れているから負ける」という通説に対して、この考えは少し異なる視点を提供してくれます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;（※ ただし、ここまでの研究は、AIの全社導入が組織全体の所要時間を悪化させることを実証したものではありません。&lt;a href=&quot;https://academic.oup.com/qje/article/140/2/889/7990658&quot;&gt;コールセンター研究&lt;/a&gt;が測ったのは問い合わせ処理であり、&lt;a href=&quot;https://benny.aeaweb.org/articles?id=10.1257%2Faeri.20250275&quot;&gt;Copilot研究&lt;/a&gt;が測ったのは個人の作業パターンです。レビューや決裁、意思決定を含む業務全体のリードタイムや成果の質は測っていません。本稿が示しているのは、上流の流入量が下流の処理能力より速く増えた場合に、待ち時間が延びうる、という未検証の仮説です。 8/12 追記）&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;面倒くささは社会が暗黙に課していた通行料だった&quot;&gt;面倒くささは、社会が暗黙に課していた通行料だった&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;視野を社会に広げると、同じ構造がもっと大きな規模で見えてきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば就職活動です。AIによってエントリーシートの作成がほぼ無料になれば、一人が応募する企業数を大きく増やすことは合理的になります。しかし人気企業の選考枠という細い橋の容量は変わらないため、全員が応募数を増やした均衡では通過率が下がります。採用側はAI選考で防衛し、応募側はさらに応募数を増やします。誰もが合理的に行動した結果、社会全体の採用コストが増えていきます。ここでも、一人ひとりの応募は合理的で、そのコストは選考の行列に並ぶ全員に薄く分散される、という混雑の外部性の構造が働いています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;同じ図式は、営業メールでも、問い合わせ窓口でも、パブリックコメントでも、情報公開請求でも同様です。こうしたマッチポンプは単に互いのコストだけではなく、AIを動かす電力等の社会的コストも螺旋状に増やしていくことになるでしょう。メールのコスト低下によって迷惑メールが増え、その規制をしていったように、です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ここで別の視点を取り入れます。これらの制度の処理能力が、これまで何によって守られてきたかです。答えの1つは、書類を書く手間、窓口に行く手間、そもそも制度を知る手間といった、アクセスの面倒くささです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;strong&gt;社会の多くの制度は、「面倒くささ」という暗黙の通行料によって、処理能力を超える流入から守られてきました。&lt;/strong&gt; 言い換えれば、無知と面倒くささは、社会に埋め込まれた流量制御装置として機能してきたと言えます。これは行動経済学などの&lt;a href=&quot;https://www.hayakawabooks.com/n/neb1cef47baf8&quot;&gt;スラッジ（負のナッジ）&lt;/a&gt;が良くも悪くも（ただし大概は悪い方向に）機能していたとも読めます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-organization-flow/20260808195607.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIがこれまでの技術と異なるのは、無知と作業負担の両方を、広い範囲で同時に下げる点です。社会のあちこちに眠っていた流れが、一斉に良くなることになります。しかもそのとき観察されるのは、「役所が遅くなった」「採用プロセスが壊れた」という個別の制度疲労に見えるはずで、ネットワーク全体の均衡が悪化したという診断は、なかなか下されないでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;では、暗黙の通行料が消えた後、制度の側には何ができるでしょうか。選択肢は大きく4つあります。&lt;/p&gt;
&lt;ol&gt;
&lt;li&gt;処理能力を増やす - 一次審査を自動化し、定型処理を機械へ移す&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;優先順位をつける - 予約、抽選、受付枠、緊急度による振り分けを行う&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;通行料を課す - 手数料を取ること、保証金を積ませること、申請者に一定の証拠を求めること&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;経路を閉じる - 紹介制、招待制、会員制へ切り替えることです。&lt;/li&gt;
&lt;/ol&gt;
&lt;p&gt;ここにはやや皮肉な帰結が見て取れます。AIというアクセス開放の技術が、閉鎖的なネットワークを復権させるかもしれない、ということです。応募が無限に来る世界では、信頼できる人からの紹介だけを受け付けることが、受け手にとって合理的な防衛になります。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;経営の仕事は流れを管理すること&quot;&gt;経営の仕事は流れを管理すること&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;では、企業や組織は何をすべきでしょうか。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;まず当然ながら、仕事の流れを入口から出口まで測ることです。AIの導入によって、どの工程への流入が増え、どこに待ち時間や滞留が生じたかを確認します。個人の作業が速くなることと、組織が一件の仕事を完了するまでが速くなることは、分けて考える必要があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そこで交通の知見からは、さらに4つの処方箋が出てきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;1つめは、詰まる橋そのものを広げて、流量そのもののボトルネックを解消する手があります。AIによる一次レビュー、自動テスト、標準化、権限委譲などです。上流の生成だけでなく、下流の審査と検証も同時に速くすれば、渋滞は起きにくくなります。ただし注意をしなければ、誘発需要が起こりえます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;2つめは、経路と入口を絞ることです。ソウルが高架を撤去しても交通が麻痺しなかったように、交通の世界では、容量を減らすと需要の側が適応することが知られています。組織でも、提出経路を一本化すること、レビューの受付を定時のバッチにまとめることなどができます。行列が一本になれば優先順位づけも可能になります。あえて制限することで、全体を速くすることができるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;3つめは、流量を制御するためのコストを導入することです。混雑の外部性に対する交通経済学の標準的な処方箋は、混雑した道路への課金でした。適切な課金をすると、個々の選択による均衡を、社会全体にとって望ましい状態へ近づけられることが知られています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;組織に当てはめて考えれば、混雑する経路に内部価格をつけることです。たとえば、レビュー依頼に部署ごとの予算枠を設けること、決裁に上げる文書の分量に上限を課すこと、起案者に自己検証の証跡を義務づけることなどです。面倒くささという通行料をAIが撤廃したのなら、今度は設計された通行料を意図的に再導入するわけです。ポイントは、これを単なる官僚主義ではなく、共有された判断能力の渋滞対策として考えられることです。ただし、これについては現場から相応の反対意見も出るようにも思うので、導入には注意が必要でしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;4つめは、部分的な中央統制です。一部の流れだけを中央が割り当て、残りを各主体の判断に任せる方法は、経路選択の研究ではStackelberg routing（ゲーム理論のスタッケルバーグ・モデルをネットワークの経路制御に応用した最適化手法）として扱われています。効果はネットワークの形に左右されますが、全面的な中央集権だけが選択肢ではありません。企業で言えば、たとえば法務、品質保証、経営会議、重要顧客への提案など、複数部門が共有する工程だけを全体で調整することです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そう考えると、ここには事業機会も見えてきます。組織のどこで仕掛かりが滞留しているかを計測する仕事、決裁やレビューという社内市場に価格をつける仕事、紹介制や招待制の閉鎖ネットワークを設計・運営する仕事などです。AIによって、「&lt;strong&gt;組織の交通工学&lt;/strong&gt;」という観点での能力が必要とされ、マネジメント層の新しい仕事が生まれてくるということです。そのとき、自然発生渋滞や渋滞学の知見なども場合によっては使えるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-organization-flow/20260808195622.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIは人間の知的作業のネットワークの中に入ってくるでしょう。そのとき、工場のワークフローを考えるように、知的作業の複雑なネットワーク全体を改善するための計測と変更を、人とAIの混在する組織で続けていくことが求められます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;しかもAI自体の性能向上を見ながら、これらの設計を継続的に変更していく必要があるため、&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/ai-chro-caio/&quot;&gt;AI戦略と人事戦略の一体化&lt;/a&gt;が必要だということでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;まとめ&quot;&gt;まとめ&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;誘発需要、ボトルネック、混雑の外部性という交通の知見をもとに、AI導入後の組織で起きうる渋滞について考えてきました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;短期的には、AIを配ること自体が競争になるでしょうし、それを止めるべきだとも思いません。しかしやがて、導入企業の間で「配ったのに遅くなった」という説明のつきにくいこの現象が起きているかを検証する必要があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そのとき、&lt;strong&gt;ネットワーク構造を最適化したり、流量を制御できる企業かそうでないかが、モデルの性能差よりも大きな差として現れる&lt;/strong&gt;のではないかと思います。渋滞の研究が「道路を増やせ」から「流れを設計せよ」へ進んだように、AIを使った経営も、いずれ同じ方向へ進むことになるのでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIを配った後には、「配ったのに遅くなった」という現象が実際に起きていないかを確かめるとその効果が高まるのではないかと思います。そしてAI時代の競争力を分けるのは、モデルの性能だけではなく、組織全体の流れを測り、設計し直す能力になるかもしれません。AIによって特定の道路や車が急速に速くなるとき、交通工学のことを思い出し、自社の仕事がどの細い橋で滞留しているかを測るところから始めてみることが一つの方法かもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;（8/9 追記・8/10 改稿：初出時はブライスのパラドックスを記事の主軸に据えていましたが、「これは厳密にはブライスのパラドックスではない」という趣旨の指摘を複数いただきました。検討した結果、この指摘は妥当だと考えています。そこで本記事は、誘発需要・ボトルネック・混雑の外部性を主軸に据え、ブライスのパラドックスは一般的な教訓を借りる一例という位置づけへと構成を改めました。削ることも考えましたが、既に多く読まれてしまっているため、残しています。重ね重ね、ご指摘ありがとうございました。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;（8/12 改稿：&lt;a href=&quot;https://x.com/kyunkyun_p_dsub/status/2086820144186323126&quot;&gt;ご指摘&lt;/a&gt;をいただいてさらに改稿しました。あくまで未検証の仮説である旨を加えています。その他、細かく補足・修正しています。）&lt;/p&gt;</content:encoded><dc:creator>馬田 隆明</dc:creator><category>AI</category></item><item><title>大きな山を指定して、AIと一緒に登り方を学ぶ —— 2026年度アントレプレナー道場の振り返り</title><link>https://takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/</link><guid isPermaLink="true">https://takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/</guid><description>東京大学アントレプレナー道場というアントレプレナーシップ教育の2026年度授業が終わりました。 前半のS1（4月〜6月）は講義とゲスト講演を中心とした7回、後半のS2（6月〜7月）はチームで実践する7回という構成です。今年はこの両方で、授業…</description><pubDate>Thu, 30 Jul 2026 05:26:35 GMT</pubDate><content:encoded>&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730134404.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;東京大学アントレプレナー道場というアントレプレナーシップ教育の2026年度授業が終わりました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;前半のS1（4月〜6月）は講義とゲスト講演を中心とした7回、後半のS2（6月〜7月）はチームで実践する7回という構成です。今年はこの両方で、授業の設計を大きく変えました。本稿はその記録と振り返りです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;背景と文脈&quot;&gt;背景と文脈&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;まず文脈として、昨年末に「&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/how-genai-changes-entrepreneurship-education/&quot;&gt;生成AIによってアントレプレナーシップ教育はどう変わるか&lt;/a&gt;」という記事を書きました。生成AIを使えば、学生は30分でそれなりの見栄えのピッチ資料を作れてしまいます。学生の努力や能力と成果物の質が大きく乖離しやすくなったということです。さらに学生の使える生成AIのプランでも、成果物の質は大きく変わります。これによりAIへの課金やAIリテラシーの差が成果物に大きく影響することになりました。しかしAIの授業での利用を制約したままでは、現実のアントレプレナーシップが求められるシーンとの乖離が大きくなってしまいます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;また、アントレプレナーシップ教育には&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/from-narrow-to-wide-entrepreneurship-education/&quot;&gt;広義と狭義&lt;/a&gt;があるという説明をしてきましたが、本授業は比較的狭義のアントレプレナーシップ寄りでありつつ、広義のアントレプレナーシップも涵養を目指す、という設計の授業です。ビジネスの知識やスキルを伝えるのではなく、それらが包含されるような、他の領域でも使える仮説検証や資源の獲得といった資質・能力の涵養を目的としていますが、比較的狭義寄りではあります。そして狭義のアントレプレナーシップを扱う際にも、起業全般ではなく、ハイグロース・スタートアップを前提とした話をしています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;こうした環境下でアントレプレナーシップ教育は何を教え、何を評価するべきなのか。そんな話で年末の記事は終わっていましたが、その問いに対する2026年時点の私たちなりの取り組みの記録として共有しておきます。ただし、すべての地域や教育目的で応用できるものではない点はあらかじめお断りしておきます。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;今年の大きな変更構想とai&quot;&gt;今年の大きな変更：構想とAI&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;変更は大きく三つあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730134147.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;strong&gt;第一に、教える重心を「足元の課題を見つけて仮説検証する」ことから、「大きな構想を描き、そこに至る戦略を設計する」ことへ移しました。&lt;/strong&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/limitation-of-lean-startup/&quot;&gt;従前&lt;/a&gt;から述べているとおり、従来のリーンスタートアップやデザイン思考のような方法論は、日本のハイグロース・スタートアップを生み出すという観点は限界があると思っています。身近なアイデアを起点になりがちなのと、検証しているうちに小さな事業に収束しがちだからです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もちろん、隠れた課題を探し、解決策を考え、それらを検証するという進め方は、スモールビジネスの起業には今も有効ですし、大きな構想を描いたとしても、足元は仮説検証の連続であることに変わりはありません。それに仮説検証の方法論は教えやすいという点も、教員としては嬉しいことです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;それでも、日本のスタートアップエコシステムが置かれた環境や、後述するようなAIの発展、そして仮説検証の教えやすさ＝良いを考えると、まず「どの山に登るか」を決めることの重要性が増している、というのが私の現状認識です（&lt;a href=&quot;https://speakerdeck.com/tumada/sutatoatupuhuitutoziyani-version-2&quot;&gt;Fit Journey v2参照&lt;/a&gt;）。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;以上は狭義のアントレプレナーシップについての話ですが、広義のアントレプレナーシップを見てみても同様の状況のように思っています。現在の日本の産業構想や地域の構想、国家戦略など、人口が縮小していく中でどのように新しい構図を描き、それを実装していくのかや、国際秩序が揺れる中でどのような位置を気づいてくのかといった面で、様々な大きな構想が求められ始めているからです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;strong&gt;第二に、S2では教員側から「ミッション」を指定するようにしました。&lt;/strong&gt; たとえば「15年以内に時価総額3000億円以上になる事業を、海中ロボットの領域で作る」といった大きな目標と制約をあらかじめ用意し、学生はその中から選んで挑んでもらうようにしました。山の大きさは変えられませんが、登り方は自由、という形です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もともと数年前から、S2のワークショップでは学生の完全に自由なアイデアから始めるのをやめていました。自由にすると、インタビューなどの仮説検証がしづらいアイデアが出てきやすいことが理由です。インタビューによる仮説検証をしてほしかったので、自由なアイデアを選ぶことを制限していました（とはいえ領域が同じであればアイデアは改変しても構わないとしていました）。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;こうした制約の副作用としては、学生の皆さんが自分のアイデアではないことで、やる気が削がれる人が出てきたり、リーダーによるチームビルディングが経験しづらくなるところにあります。しかしそのデメリットを持ってでも仮説検証の体験を重視していました。そこから今年は、インタビューによる仮説検証の経験の優先度を下げて、大きな目標に挑むことの経験の優先度を上げました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;なお、そうした大きな目標を学生の皆さんに設定してもらうこともできたかもしれませんが、社会人の皆さんの起業支援をしていても、「どの山に登るか」を決めるのは大変難しい仕事です。だからこそ授業では山の選定を教員が引き受け、学生には「大きな山の登り方」の訓練に集中してもらうことにしました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;それに自分のアイデアを試す機会は、学内の課外活動にも学外のプログラムにも増えてきています。であれば、大学の授業は、個人ではなかなか選びにくい、大きな社会的意義のある山を提示する場であるほうが良いのではないか、と考えました。大きな山の登り方を短期間で学ぶのは従来は難しいことでしたが、AIを使えば加速できるのではないか、という見込みもありました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;strong&gt;第三に、授業全体をAIの利用を前提に組み直しました。&lt;/strong&gt; 調査、模擬インタビュー、戦略立案、資金調達計画、ピッチ資料の作成までAIを組み込み、さらに授業用のウェブアプリを5つほど自作して、座学と実践の間に「模擬実践」の段階を挟んでいます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;この三つは独立した変更ではなく、生成AIが調査や検証試作のコストを下げたからこそ、どこへ向かうかを決める力が相対的に希少になり、教育の重心もそちらへ移したということです。そして同じ生成AIのおかげで、その重心移動を支える教材やアプリを教員自身が作れるようになりました。「AIで探索と試作の速度を上げ、その分だけ人間には山の選択と戦略と判断を求める」という方針を、S1とS2に分けて実装したのが今年の授業です。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;s1大きな構想を描くことの強調&quot;&gt;S1：大きな構想を描くことの強調&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;S1は基礎知識とアンラーンのための学期と定めています。後者について補足すると、多くの学生は、スタートアップ的なビジネスについて「知らない」のではなく、「間違った知識を持っている」ため、まずそれをほぐす必要があります。この位置づけは従来と変わりません。7回の講義とゲスト講演という器も変えず、中身を大きく2つ入れ替えました。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id=&quot;1-市場と戦略&quot;&gt;(1) 市場と戦略&lt;/h3&gt;
&lt;p&gt;一つめは、市場と戦略性の重視です。FoundXで使ってきた「スタートアップ・フィット・ジャーニー」の旧版は、顧客から始まり、課題、解決策、製品、市場へと積み上がる道筋でした。今年はその前に「市場の選定（Market）」と「戦略の構築（Market/Strategy Fit）」の二段階を足した新版を使っています。マクロな設定は、あとから変更するのが難しいからです。市場を間違えたら、その後どれだけミクロな検証を頑張っても、高成長の可能性は極めて低くなります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;授業では、「100点満点のテストで95点を取るか、1兆点満点のテストで95億点を取るか」という話を何度かしました。スタートアップの物差しは成功確率ではなく、成功時の大きさです。決められた満点の中で取りこぼさない訓練を積んできた東京大学の学生にとって、これはおそらく最もアンラーンが必要な部分です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;学期末の振り返りには、「これまでは与えられた課題にどれだけ良い結果を出せるかを重視していたが、そもそもどの課題に取り組むかという視点はあまり持っていなかった」といった記述もありました。知識の獲得としてではなく、自分がどの物差しを使っていたかへの気づきとして返ってきたのは、アンラーンを狙った授業として狙いに近い反応でした。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id=&quot;2-aiによる模擬実践&quot;&gt;(2) AIによる模擬実践&lt;/h3&gt;
&lt;p&gt;二つめは、AIによる模擬実践です。今年はWebアプリを私の方で自作して、授業と宿題に組み込みました。たとえば以下のようなものです。&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;講義をリアルタイムで文字起こしし、学生の質問投稿にAIが改善提案をする講義用アプリ&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;AIを相手にセールスや投資判断を体験するインタビューアプリ&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;起業の流れを6ステップで疑似体験するアプリ (Fit Journey 体験アプリ)&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;市場選定や戦略立案のための&lt;a href=&quot;https://prompt-deeptech.foundx.jp/&quot;&gt;プロンプト集&lt;/a&gt;&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;figure&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135411.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;figcaption&gt;
&lt;p&gt;Fit Journey シミュレーション&lt;/p&gt;
&lt;/figcaption&gt;
&lt;/figure&gt;
&lt;figure&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135431.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;figcaption&gt;
&lt;p&gt;インタビュー道場&lt;/p&gt;
&lt;/figcaption&gt;
&lt;/figure&gt;
&lt;p&gt;AI アプリを使うメリットはいくつかあると考えています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;従来は、座学で学んだ次の一歩がいきなり実戦でした（授業内で学生同士の模擬訓練はしていましたが）。その間に、失敗のコストがほぼゼロの練習場を一つ挟んだことになります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIを使った模擬実践のメリットは、AIが随時アドバイスをくれる点にあります。たとえばインタビューアプリは、質問の改善案や「その質問では駄目な理由」をその場で返してくれます。学生の振り返りで典型的だったのは、「自分では良い質問だと思っていても、相手を誘導してしまったり、本当に困っていることまで深掘りできなかったりした」というものです。座学で「誘導する質問をしてはいけません」と説明することはできますが、自分が誘導していることには、指摘されるまで気づけません。しかし教員が一人一人についてそれを指摘するのは難しいので、AIなどを使うと補助的に使えるという判断でした。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135321.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;個人データを集めない仕組みや、学生の入力内容を運営側が見ない設計にも配慮しました（宿題をクリアするとクリアコードが発行され、Google Formsで報告してもらう、など）。なお、アプリ開発という観点では、戦略系のアプリはもう一つ作っていたものの、うまく作れずに諦めました。抽象度の高い思考の相手をAIにさせるのは、まだ難しい印象でした。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;印象的だったのは、AIの限界への気づきです。時価総額3000億円という仮想条件でAIを使って市場選定をする宿題に対して、ある学生は「AIに頼ると、大きく確実な市場の平均的なアイデアに流れやすい」と、自分で何度も回した感触として書いてきました。AIの活用を扱う授業の成果が、AIの限界の体感だったというのは少し逆説的ですが、順当な結果でもあると思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;細かなTipsですが、リフレクションシートの設問をAIと一緒に考えられるのは助かりました。リフレクションは、どういう設問を置くかで学習者の学びがずいぶん変わります。従来はチーム内で検討していたリフレクションの設問設計を、いつでも相談できて、教育学的な知見を踏まえて返してくれるAIと行えるのは助かりました。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;s2山を指定しaiとともに登る&quot;&gt;S2：山を指定し、AIとともに登る&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;S2はワークショップ形式の7回です。学生はチームに分かれ、初期調査から始めて、事業仮説作り、戦略とプロトタイプ計画、資金調達計画とピッチ資料の作成へと進みます。最終2回は現役の起業家5人・投資家5人を審査員に招き、ジグソー法を用いて学生全員が個人でピッチを行いました。起業家・投資家という実社会の評価者に仮説をぶつける経験、教育学でいう真正性の高い評価（authentic assessment）のためです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そのうえで今年は以下のような変更を行いました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730134218.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;h3 id=&quot;1-ミッションの設計&quot;&gt;(1) ミッションの設計&lt;/h3&gt;
&lt;p&gt;用意したミッションは、海×ロボット、天然水素、宇宙、風力、素材×AI、住宅×エネルギーといったディープテック寄りの領域が中心です。営利のミッションには「15年以内に時価総額3000億円以上」という共通の制約を課しました（社会起業系には別の形の大きな目標を置いています）。各ミッションには、プロジェクト案の例、競合、初期に検証すべき仮説、10万円程度で作れるプロトタイプ案、参考文献までを一覧にしたシートを付けています。プロジェクト案は変更できますが、領域と制約条件は変えられないものとしました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135334.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;h3 id=&quot;2-各ステップへのaiの組み込み&quot;&gt;(2) 各ステップへのAIの組み込み&lt;/h3&gt;
&lt;p&gt;AIは各ステップに組み込みました。調査ではNotebookLMと、授業用に用意した「AI Wiki」を使います。これはプロンプトテンプレート集を含む調査・整理環境で、学生がAIに何かを聞くと、そのすべてのやりとりがWikiに保存され、Wikiのページが一定数溜まるとLLMが自動で洞察を整理する、いわば&lt;a href=&quot;https://gist.github.com/karpathy/442a6bf555914893e9891c11519de94f&quot;&gt;LLM Wiki&lt;/a&gt;のグループ版のようなものです。AIはOpenRouter経由で、その時々で速度と性能とコストの良いものをこちらで選定しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135346.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;h3 id=&quot;結果&quot;&gt;結果&lt;/h3&gt;
&lt;p&gt;傾向として、従来よりも時間が足りないなという印象はありました。やはり、専門外のことに対して AI を使ってもキャッチアップするのは非常に難しいというのはあるようです。一方で、AI がない時代なら、ここまでちゃんとした調査はできなかっただろうなと思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;学生の皆さんの学びも少し変わったように思います。「仮説検証の重要性に気づいた」という従来の学びよりは、「高い目標でもちゃんと調べて登っていけば、ある程度のところまで行けるんだ」という感覚が身についたようなコメントがありました。これは授業の設計通りだとも思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;審査員側の反応も変わりました。昨年度までは、学生の「身の回りの課題アプリ」と投資家が普段接しているアイデアとの差が大きすぎるせいか、「コメントが難しい」と言われていました。今年は「コメントはしやすかったものの、同じ俎上に載った分、粗が目立つ」という感想をもらいました。だからこそ、もっとインタビューや現場に行って解像度を上げてほしい、というようなコメントもありました。これはもう少し時間があればできるのかもしれません。とはいえ、通常の起業家と同じ俎上で評価されるようになったこと自体が、一つの前進だと受け止めています。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;削いだもの難しかったこと&quot;&gt;削いだもの、難しかったこと&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135558.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;一方で、この設計のために削いだものもあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;まず、ゼロからアイデアを作る練習はできません。ミッションは教員が指定するからです。加えて、チームの組成も運営側で行ったため、自ら仲間を集めてチームを作っていく経験もありません（ただしチーム内でのチームワークは当然必要です）。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そうした点は、自分のアイデアを試す機会や仲間を見つける機会が、学内の課外活動や学外のプログラムに比較的多くあるからですが、そうした機会に恵まれた東京だからこそ削れた、という面は大いにあると思います。実際、「自分のアイデアを試したい人は他の授業や課外活動で」という説明はしたものの、この変更への不満や辞退者があったのも事実です。それでも、必要とされるスキルが変わってきているのであれば、評判よりも必要なスキルのほうを伝えるべきだと判断しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;最も難しかったのはインタビューです。昨年度までは学生自身が顧客になり得るアイデアを指定していたため、顧客インタビューを通した仮説検証がしやすかったのですが、今年はミッション志向のディープテック領域が中心で、インタビュー相手にたどり着くこと自体が難しくなりました。今年も一社にご協力いただき、実際にインタビューを実施できたチームはあったものの、少し難しい印象でした。来年度は、東大の技術に関連したミッションに絞る、ミッションの種類を減らして顧客候補の協力を事前に依頼しておく、といった工夫で多少は緩和できるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;生成aiとアントレプレナーシップ教育&quot;&gt;生成AIとアントレプレナーシップ教育&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135756.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;今年の経験から考えたことを最後にまとめておきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;1つめに、教員が自分でインタラクティブな教材を作れるようになったことは大きいと思います。これまで教育のソフトウェアは、ZoomやLMSのような効率化の道具でした。決まった手順を速く正確に処理しますが、授業の中身をそう変えるものではありませんでした。生成AIは違います。数年前なら外注に数百万円と数か月かかったであろうアプリを、教員個人が作って毎週直せます。しかもAIによるパーソナライゼーションも多少は可能です。自分の授業の、自分の回の、伝えたい一点のためだけの道具としてのソフトウェアが成立するようになりました。これはアントレプレナーシップ教育に限らない変化だと思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;2つめに、その代わり授業の設計は難しくなりました。学生・教員・教材の三者で成り立っていたところに、四つめの要素として本格的にソフトウェアが入ってきたからです。汎用のツールだけでなく、1コマごとの講義に合わせた専用のソフトウェアをすぐに作れるようになった今、アクティブ・ラーニングの中にソフトウェアや生成AIをどう位置づけるかについて、模索の時期がしばらく続くのだろうと思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;3つめに、それでもAIを使わなければ、現実と教育のギャップが拡大していくことは間違いないだろうということです。前回の記事でも触れたとおり、実社会と距離が近いアントレプレナーシップ教育だからこそ、実社会との折り合いをどうつけ、短期間で学生の学習をどう最大化するかを、改めて考え続ける必要があると感じています。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;世界での類似の取り組み&quot;&gt;世界での類似の取り組み&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;生成AIとどう付き合うかは、海外の教育現場も悩んでいるようです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば2026年春の&lt;a href=&quot;https://steveblank.com/category/lean-launchpad/&quot;&gt;StanfordのLean LaunchPad&lt;/a&gt;では、8チームが約10週間で978件のインタビューを行い、全チームが生成AIを使いました。そこで報告されたのは、AIでプロダクトを作る速度が、顧客から学ぶ速度を追い越すという問題です。学生は数時間で洗練されたMVPを作れる一方、それがどの仮説を検証するためのものかを説明できないことがあった、といいます。努力と成果物のアンバンドルという私の問題意識と、ほぼ同じ認識です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ミッションを指定する形式は、Stanford発の&lt;a href=&quot;https://www.h4d.us/about-h4d&quot;&gt;Hacking for Defense&lt;/a&gt;が先行しています。政府機関などが持ち込む実在の課題に学生チームが挑む授業で、約70大学に展開されています。違いは、Hacking for Defenseが「現在困っている問題」を扱うのに対し、道場は「将来大きくなるべき領域」を教員が設定している点です。また&lt;a href=&quot;https://gail.wharton.upenn.edu/&quot;&gt;WhartonのGenerative AI Labs&lt;/a&gt;は、AIがメンターや投資家役を演じるピッチ練習シミュレーションを作り、さらに教員が自分の授業専用のシミュレーションを作れる環境まで構想しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり今年の私たちの授業は、ミッション指定型の授業、AIシミュレーション、仮説検証、長期構想からの逆算という、世界で個別に試されている要素を、「大きな山をAIと登る」という一つの比喩とカリキュラムに統合した実験だった、と位置づけられます。ただし公平のために言えば、海外事例の多くもまだ実践報告の段階で、AI利用が長期的な学習成果を高めたという厳密な検証はこれからです。本稿の主張も、有効性が証明された方法ではなく、同じ方向の実験が世界で同時多発的に始まっている、という水準で読んでいただければと思います。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;まとめ&quot;&gt;まとめ&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;身近な課題についての仮説検証サイクルはAIによって早くなりました。そうした世界において、&lt;strong&gt;人間に残る仕事が「どの山に登るかを決め、登り方を設計し、判断し続けること」なのだとすれば、教育の重心もそちらへ移していく必要があります。&lt;/strong&gt; 今年の道場は、その一つの試行でした。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;授業では学生の皆さんに「100点満点で95点を取るか、1兆点満点で95億点を取るか」と尋ねましたが、同じ問いは、私たち教員側にも向けられているのだろうと思います。既存の枠組みの中で少し良い授業を作るか、何を教えるべきかから作り直すか、です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そして、アントレプレナーシップ教育に関わる私たち自身は「アントレプレナーシップを発揮できているか」「教育でも毎年挑戦していないか」を常々問わなければならないのだろうと思っています。その取り組みが今年の取り組みです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;私たちの仮説が間違っているかもしれませんし、来年も同じ授業をやっているとは限りませんが（たぶん変えていると思いますが）、現時点の私たちの取り組みの情報共有として記事にまとめておきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;なお、今回使ったアプリの公開の予定はありませんが、プロンプト集はFoundXのサイトで公開しています。同じ試行錯誤をされている教育関係者や政策担当者の方がいれば、参考にしていただければ幸いです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ntre-dojo-2026-ai/20260730135611.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;</content:encoded><dc:creator>馬田 隆明</dc:creator><category>アントレプレナーシップ教育</category><category>AI</category></item><item><title>なぜAI戦略と人事戦略は一体化しうるのか</title><link>https://takaumada.com/blog/ai-chro-caio/</link><guid isPermaLink="true">https://takaumada.com/blog/ai-chro-caio/</guid><description>2026年6月、メルカリはCTOをCHRO兼CAIOに据え、SansanはCHROにCAXO（Chief AI Transformation Officer）を兼任させました。出発点は逆ですが、2社に共通するのは、AI活用を技術部門だけの課…</description><pubDate>Wed, 15 Jul 2026 00:24:42 GMT</pubDate><content:encoded>&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715092025.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;2026年6月、メルカリはCTOをCHRO兼CAIOに据え、SansanはCHROにCAXO（Chief AI Transformation Officer）を兼任させました。出発点は逆ですが、2社に共通するのは、AI活用を技術部門だけの課題ではなく、人と組織の運営基盤を作り直す課題として扱っていることです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;この動きを、「人件費をトークン費に置き換えるため、人とAIを同じ責任者が管理するようになった」といったような、『AIが人間の仕事を奪う』という論に沿う形だけで理解するのは、少しその裏にある考え方を一部見誤ってしまうように思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIの導入は、後で詳細に解説するように、「&lt;strong&gt;組織が持つ情報処理能力と判断権を、人、AI、ソフトウェア、ルールなどの間で再配置すること&lt;/strong&gt;」であると考えると、その設計には、AIの能力を理解する人だけでなく、人事や組織を変化させる権利を有し、職務、権限、育成、評価、組織構造を統合的に設計する人が必要になります。そうすると、CHROとCAIOなどの機能統合には一定の納得感があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;以前『&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/ai-transaction-cost/&quot;&gt;「AI企業境界論」から見るAI時代の組織論&lt;/a&gt;』でも、「HR担当がAI担当を兼ねる動きは、AI時代の組織設計の在り方を反映した形に見える」と少しだけ触れましたが、ここで改めて少しまとめておきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091114.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;電気の社会実装とaiの社会実装&quot;&gt;電気の社会実装とAIの社会実装&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;生成AIのライセンスを全社に配り、研修も行い、利用率も上がったけれど、組織全体の生産性や意思決定の速度は、期待したほど上がっていない、ということをよく聞くようになりました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;新しい技術が興ったときに、最初に起こるのは、いまの仕事に新しい道具をプラスすることです。AI要約、原稿の下書き、資料の作成など、多くはそのように行われています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;しかし以前、『&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/ai-and-deeptech/&quot;&gt;ソフトウェアや知能が安くなったときに起きること&lt;/a&gt;』という記事でも触れましたが、技術が本当に生産性を向上させるには、もう少し大きな変化が必要のようです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば電気がどのように製造業の工場の生産性を上げたのかを見てみましょう。工場の姿が変わり、電気によって工場の生産性が向上するまでには数十年を要したようです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091142.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;電気が来る前までの工場は蒸気機関で動いていました。そこでは中央の大型エンジンから、伝動軸やベルトを通じて複数の機械に動力を送っていたようです。この構造では、機械の位置が動力伝達の制約に縛られます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;初期の電化では、中央の蒸気機関を大型の電気モーターに置き換えても、伝動軸や工場の配置はそのまま残ることがありました。これでは、燃料費や保守費の一部は下がっても、電気の可能性を十分には生かせません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;大きな変化が起きたのは、機械ごとに小型モーターを配置する単独駆動が広がってからです。機械の位置を中央動力から切り離せるため、設備を材料や作業の流れに合わせて配置できるようになりました。そうして工場の機械配置、工程、監督、保守、投資判断までが変わったことではじめて、大きく生産性が向上したのです。こうした方式が広く定着するまでには、古典的な説明では&lt;a href=&quot;https://www.nber.org/system/files/working_papers/w24001/w24001.pdf&quot;&gt;約30年&lt;/a&gt;を要したとされています。（年数には諸説あります。より詳しくは『&lt;a href=&quot;https://eijipress.co.jp/products/2304&quot;&gt;未来を実装する&lt;/a&gt;』などもご覧ください。）&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、技術の価値は、技術単体では決まらず、設備や業務、技能、権限、評価制度などの補完的な仕組みが、技術に合うよう組み直されたときにより大きくなります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;こうした観点から、生成AIのライセンスを皆に配る、というのは、1900年前後に「電気モーターを工場の社員全員に配って、自身の業務の改善案を考えさせる」ということをしているのと同じようなこととも言えます。もちろん、AIはモーターと違い、知的生産の道具ではあるので、その道具を与えることで個人の生産性向上が見られるとは思いますが、基本的には現在の業務の部分的な改善案しか出てこないでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もし現在のAIが汎用的に使える技術なのであれば、本来やるべきなのは、経営陣がAIを用いた未来の組織全体を考え、その中でAIをどう使うのかを考えることです。その答えを探索するためのアサインメントが、CHROとCAIOの併任なのだろうと思います。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;組織は情報処理のアーキテクチャでもある&quot;&gt;組織は情報処理のアーキテクチャでもある&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091203.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIは従来の「物理的な力」の機械への置き換えとは異なる面を持ちます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;組織という観点から見てみれば、組織論には古くから、組織を情報処理の仕組みとして捉える見方があります。ジェイ・ガルブレイスの&lt;a href=&quot;https://jaygalbraith.com/wp-content/uploads/2024/03/infoprocess1974.pdf&quot;&gt;情報処理モデル&lt;/a&gt;によれば、仕事の不確実性が高くなるほど、実行中に観察し、共有し、判断しなければならない情報量が増えます。ルール、階層、承認、目標管理、部門横断チームといった制度は、どれもその情報と例外を処理するために組織が作ってきた装置です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;実際、組織構造は次のことを決めています。&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;誰が現場の情報を観察し、どの形式で記録するか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;誰がその情報にアクセスでき、どこに集約するか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;誰が解釈し、判断し、承認するか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;例外事案を誰に送るか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;結果をどこへフィードバックするか&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;この意味で、組織図や業務フローは、人の配置図であると同時に、&lt;strong&gt;情報を処理するノードと、その間の配線を示した設計図&lt;/strong&gt;でもあります。 一段引いて見れば、組織アーキテクチャ自体が情報処理を規定するための仕組みだということです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえば、階層型組織を採用した場合、情報処理の方向はカスケード式になり、上司が情報を割り振るので、情報伝達は遅くなる傾向にありますが、情報はフィルタリングされたものが降りて来やすくなり、また責任のありかは分かりやすくなります。一方、フラット型の組織は情報伝達は早くなりますが、早く伝わる情報がすべて必要かというとそうではありませんし、責任のありかは分かりづらくなります。組織構造自体に、情報伝達や責任という観点で、メリットとデメリットが組み込まれています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;経営という観点で「人間」という資源が持つ機能の一面だけを見れば、人間は情報処理ノードの一種です。顧客や現場から情報を受け取り、過去の経験や専門知識と照合して、意味づけを行い、その場その場で判断し、場合によってはその結果を別の人やシステムへ渡しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIもまた、この組織という配線上に置かれる新しいノードです。情報を検索し、分類し、要約し、文章やコードを生成し、ときにはシステムを操作します。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;組織を情報処理アーキテクチャとして見る限りにおいて、人間とAIはどちらも「情報を受け取り、処理し、次の工程へ渡す主体」として認識できます。であれば、それをフラットに並べて、どのように動かすのかを考えるのは一理あります。AIが大量に情報処理できるというメリットを使って、新しい組織形態も検討できるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そしてAIが従来のソフトウェアと異なるのは、従来のソフトウェアでは、入力、処理手順、出力、例外条件を比較的明示しやすかった一方、生成AIは、非構造化された入力や曖昧な依頼に対してオープンエンドな出力を生成できるものの、性能境界や失敗条件を事前に列挙しにくい、という点にあります。いわば、より人間の知能の性質に近づいたため、こうした組織や人事の問題が近づいたと言えるかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;機能は似ていても制度上は非対称&quot;&gt;機能は似ていても、制度上は非対称&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091216.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もちろん、人間とAIは同じ資源ではありません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;人間は経験を通じて成長し、法的・道徳的な責任を引き受けます。AIは情報を処理することはできても、組織の目的を自ら引き受けることも、事故が起きたときに責任を負うこともありません（少なくとも現在の法的には）。また、現在のAIは文脈情報を人間ほど十分に持てるわけではありません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;こうした違いは、実務の上では少なくとも2つの問題として現れます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;1つめは目的との不整合です。AIは、平均的でもっともらしい出力を生成することはできますが、文脈情報を十分にもったうえで、&quot;組織にとって&quot;正しい判断をすることは、現時点ではそこまで得意としていません。たとえば顧客への返信として自然な文章を作れても、それが会社の方針や契約条件、法的義務に照らして適切とは限らない、などです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もちろん人間も常に組織目的に整合しているわけではなく、だからこそ組織は採用や育成、評価、インセンティブ、文化といった仕組みを作ってきました。しかしAIで必要なそうした人間向けの施策ではなく、データへのアクセス権や実行権限、参照できるナレッジ、検証工程や停止条件といったような、人間とはまったく別の方法です。これを揃えて行くには相当な努力が必要です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;2つめは責任の不整合です。AIに作業を委ねることはできても、組織としての説明責任まで委ねることはできません。AIを業務に配置するときには、その周囲に、誰が承認し、誰が監督し、誰が停止し、誰が最終責任を持つかという責任構造をあわせて用意する必要があります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、両者に共通して必要なのは、AIに何を任せ、どこから先は任せないかという境界の設計です。そしてこの境界の設計は、単なる「人件費とトークン費を減らす」というコスト比較からは導けません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;言い換えると、AI導入には、&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;経済性（人間とAIのどちらが、どのコストで処理できるか）&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;業務設計（人、AI、システムがどの順序で何を処理するか）&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;制度設計（誰が権限を持ち、誰が学習し、誰が評価され、誰が責任を負うか）&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;といったような3つの異なる問題が含まれており、コスト比較で答えが出るのは1つめだけであり、CHROとCAIOの統合が扱っているのは、主として2つめと3つめだということです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;問い合わせ対応で考える&quot;&gt;問い合わせ対応で考える&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;抽象論が続いたので、どの業種にもある問い合わせ対応を例に見てみます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;従来は、担当者が問い合わせを読み、過去資料を探し、回答案を書き、上司が確認し、顧客へ返信し、記録を残していました。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ここに回答生成AIだけを追加すると、回答案を書く時間は確かに短くなります。しかし、すべての回答を上司が確認する運用が残れば、案件は承認工程に滞留します。作成工程の処理能力だけが増え、下流の承認能力は変わっていないからです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これはAIの性能不足ではなく、&lt;strong&gt;組織という情報処理や意思決定の配線が以前のままだから起きる問題&lt;/strong&gt;です。「AIの利用率は上がったのに、組織全体の生産性は期待ほど上がらない」という多くの企業の悩みの原因も、おそらくこうしたところにあります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;もしAIを前提に業務全体を設計し直すなら、たとえば次のようになるでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;ol&gt;
&lt;li&gt;受付時に問い合わせ情報を構造化し、案件の種類とリスクを分類する&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;AIが承認済みナレッジを参照し、回答案と根拠を提示する&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;低リスク案件は自動処理し、一定割合をサンプリング監査する&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;中リスク案件は担当者が根拠を確認して承認する&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;高リスク案件や例外案件は専門職へエスカレーションする&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;新しい例外や誤りを、承認を経てナレッジへ還流させる&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;解決までの時間、誤回答率、差し戻し率、顧客評価を測定する&lt;/li&gt;
&lt;/ol&gt;
&lt;p&gt;ここで注目したいのは、この設計変更で移動したものです。&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;担当者の職務は、回答を書くことから、根拠を検証し例外を判断することへ移ります。&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;上司の役割は、全件確認から、リスク基準の設計と異常の監督へ移ります。&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;若手に必要な能力も、速く文章を書くことより、AIの回答の前提を問い、根拠を確認し、例外を見つけることへ変わります。&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;評価指標は回答作成件数ではなく、解決時間、判断の質、事故の少なさ、ナレッジへの貢献になります。&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;そして、誰がどの案件の最終責任を持つかという権限構造も変わります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091243.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、変えなければならないのは、人間の職務や管理職の役割、それにかかわる必要な技能、そして評価、権限、責任です。「AIをどこに置くか」「AIに何を任せるか」と、それに併せて「人間をどこに置くか」「その人間に何を任せるか」は、まさにAI戦略と人事戦略、さらには組織戦略が交わる理由です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;言い換えれば、仮に現在のAIの性能が新入社員レベルの知能を持ち、責任を持てない存在だとしたら、「&lt;strong&gt;そこそこ頭の良い新入社員が低コストで無限に手に入るとしたら、どういった組織を作れば全体のパフォーマンスが上がるのか？&lt;/strong&gt;」という問いに対する答えが問われているとも言えます。普通に増やしてしまえば管理職や責任者がレビューなどの負担でボトルネックになってしまうところを、どのように回避しながら、最大限のパフォーマンスが出せるか、です。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;人事が扱うのは現在の能力の最適化だけではない&quot;&gt;人事が扱うのは「現在の能力」の最適化だけではない&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091301.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;人事がAI戦略に関わる理由は、もう一つあります。人事は現在の能力配置だけでなく、&lt;strong&gt;将来の能力形成&lt;/strong&gt;を担っているからです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これまで新人が担ってきた仕事には、2つの機能がありました。資料を調べ、整理し、下書きを作るという成果物生産の機能と、その仕事を通じて、何を見るべきか、どこで疑うべきか、どの例外が重要かを学ぶ育成の機能です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AIに下準備を渡すと1つ目は効率化できますが、設計を誤ると2つ目が一緒に失われてしまいます。短期的には生産性が上がっても、数年後にAIの出力を検証できる中堅や専門家が育っていない、ということが起こりえる、ということです。この「キャリアのはしごが細る」問題は、『&lt;a href=&quot;https://takaumada.com/blog/ai-employment-elite/&quot;&gt;AIと雇用とエリート過剰生産、そして教育はどう変わるか&lt;/a&gt;』で社会の側から書きましたが、企業の側から見れば、将来必要とする能力をどう自社で育成するかという問題です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;特に、人間の専門性は、AIの処理能力のように即座に複製できず、経験、フィードバック、失敗、他者との関係を通じて長い時間をかけて形成されます。だからAI戦略は、現在の処理能力の最大化だけでは不十分となります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AI導入によって仕事を減らすことと、AI時代に必要な人材を育てることは、別々の議論ではなく、同じ業務設計の表裏になりうる、ということです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;組織の設計図を描く役割の統合&quot;&gt;組織の設計図を描く役割の統合&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091311.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ここまでを踏まえると、CHROとCAIOを統合する意味というのが見えてきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;CAIOは、AIの能力やその限界を理解した上で、AIを活用するための必要なデータ、技術的な統制、モデルの更新、ログ、評価方法を設計していきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;CHROは、従来通り、職務や配置、採用、育成、評価、報酬、そして組織構造や権限と責任を扱います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;AI導入以前なら、この2つは比較的分けて考えられました。しかし、人とAIが同じ業務フローの中で仕事を分担するようになると、両者の間には密接な相互依存関係が生まれます。CAIOが「このタスクはAIに任せられる」と決めれば、CHRO側ではそのタスクを担っていた職務、採用要件、育成経路、評価指標を変更しなければなりません。CHROが「この判断は人間に残す」と決めれば、CAIO側では、その判断に必要な根拠をAIが提示できるようにし、人間が介入できるインターフェースとログを作らなければなりません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;つまり、&lt;strong&gt;人とAIが何をどう分担し、どのように権限を与え、どう検証し、誰が責任を負うのか、そして誰を育てるのかという設計図&lt;/strong&gt;を、AIの能力の発展と使える範囲をある程度予想しながら設計していく必要があるということです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;ただしchro兼caioが唯一の解ではない&quot;&gt;ただしCHRO兼CAIOが唯一の解ではない&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;もちろん、すべての企業でCHROがCAIOを兼任すべきだ、ということではありません。重要なのは兼任ではなく機能の統合です。また、AIが製品そのものの競争力を決める企業では、CAIOはCTOやプロダクト責任者に近いほうがよいでしょうし、サプライチェーンやオペレーションの再設計が中心なら、COOとの統合のほうが機能するかもしれません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;そして重要なのは肩書ではなく、AIの能力境界の把握や業務プロセスの再設計を行うことであり、それに伴い人とAIの職務分担や育成と評価の変更、権限と責任の再定義など、AIを使った際の組織のあるべき姿を設計できる人をどうアサインするか、です。CHRO兼CAIOは、その統合を実現する一つの組織的な表現だと理解しています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;ただし、業界や業種によっても異なることは附記させてください。電気モーターは製造業の生産性を大きく変えましたが、サービス業はそこまでではなかったはずです。今回のAIも、情報処理を主とする業種では効果が高いかもしれませんが、そうではない業種ではそこまで高くないかもしれません。そうした判断も含めて、どう使うか、というところが模索されているのでしょう。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id=&quot;まとめ&quot;&gt;まとめ&lt;/h2&gt;
&lt;p&gt;人間とAIという2つの異なる性質を持つ情報処理主体を、同じ業務フローの中に配置すること。それがAI時代の組織設計であり、それは、&lt;/p&gt;
&lt;ul&gt;
&lt;li&gt;タスク：誰・何がどの作業を行うか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;判断権：誰・何が決定し、実行できるか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;統制：何を検証し、監査し、停止するか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;能力形成：人とAIをどう改善・学習させるか&lt;/li&gt;
&lt;li&gt;評価：成果と責任を誰に帰属させるか&lt;/li&gt;
&lt;/ul&gt;
&lt;p&gt;といったことを、人とAIの間で再配置することであるとも言えます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;何をAIに任せ、何を人間に残すのか。誰が検証し、誰が学習し、誰が評価され、誰が責任を引き受けるのか。その設計を分断しないための工夫が、今回のAIと人事・組織戦略の一体化なのだろうと思います。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;img src=&quot;https://img.takaumada.com/blog/ai-chro-caio/20260715091323.webp&quot; alt=&quot;&quot; width=&quot;600&quot;&gt;&lt;/p&gt;</content:encoded><dc:creator>馬田 隆明</dc:creator><category>AI</category></item></channel></rss>